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健康コラム

Vol.64

住み替えと健康

2019.10.01

働き盛りで子どもが小さい頃に手に入れた家は、通勤や子育てを重視した立地や間取りかもしれません。
しかし、歳を重ねると「階段の上り下りが楽な方が良い」とか、「病院に近いところに住みたい」など、家に対する新たなニーズが生じてきます。
今回は、子どもの独立や自分のリタイアが近づいたら考えてみたい「住み替え」についてお伝えします。

■住み替えの現状は?

「家は一生に一度の買い物」と言われますが、実際はそうとも限らないようです。国土交通省の調査によると、住宅購入者の2割近くが2回以上家を取得していることがわかります。また、2回目以上の取得(二次取得)となる世帯主は60歳以上も多くいることがわかります。

住宅取得回数

二次取得者の年齢

■ライフステージによって変化する家の役割

住み替えの理由は性別や年代によって様々です。
一例を挙げると、30歳代では男女ともに「世帯人数に対し、現在の住宅が狭いから」という理由が挙げられる一方で、60〜70歳代になると、逆に、「世帯人数に対し、現在の住宅が広すぎるから」という理由が目立つようになります。(国土交通省「住生活に関する意識調査の結果概要(国土交通行政インターネットモニターアンケート)2015年」より)
子どもが生まれて家族の人数が増える30歳代と、子どもが独立して家族の人数が減る60〜70歳代という家族像が想像できます。
子どもが遊べる庭や子ども部屋を作ったものの、子どももそのうち庭で遊ばなくなり、子どもが独立すれば部屋が余ってきます。
庭の手入れや部屋の掃除が大変という理由で、子どもが独立した後は、家をダウンサイジングする夫婦もいます。
家をダウンサイジングすれば、家にかける肉体的・精神的エネルギーが減るだけでなく、電気代などのエネルギーコストも減ります。

■老後を見据えた住み替え

これまで見てきたように、家に求める条件というのは、子どもの成長や家族を取り巻く環境によって変化しますが、子どもや家族の有無に関わらず変化するのが身体的機能です。
老後を見据えて住み替えをする場合は、身体的機能の衰えをリアルに想像したうえで、住み替える家の生活動線や家事動線を考えることが大切です。

看護学生は、「老年看護学」という授業の中で、高齢者を疑似体験するプログラムを受けることがあります。
具体的には、ヘッドホンやメガネ、おもりなどの装具を装着することで加齢による身体的変化(視力や聴力、筋力などの衰え)を作り出し、日常生活を体験するというプログラムです。
筆者も体験したことがありますが、関節にサポーターをつけ(関節の曲げ伸ばしを制限し)、手首と足首におもりをつけた状態で階段を上り下りするのは想像以上に大変です。おまけに、特殊なメガネによって視野が狭くなるので怖く感じます。

たとえば、1階にある洗濯機から洗濯物を抱えて、2階のベランダに干すという家事動線は、高齢者が階段から落ちてケガをする危険性があるということが、高齢者体験を通して容易に想像できました。
危険の少ないスムーズな動線を確保するため、2階建ての戸建住宅から平屋やマンションへ住み替えるという選択肢もあります。

実際、家庭内における不慮の事故は交通事故よりも多いとされています。
東京消防庁の救急搬送データ(平成29年)によると、日常生活における事故で救急搬送された高齢者のうち約8割が「ころぶ」事故です。筋力、視力・聴力の低下などによってころびやすくなるのです。
ころんでケガをして動かない状態が続くと、筋力が衰え、寝たきりになるリスクが高まります。骨折・転倒は、要介護の主な原因の一つです(内閣府「平成30年版高齢社会白書」より)。

また、30歳代の子育て世代においては、「通学や通勤に便利な立地」であることが居住地を決める大きな条件ですが、高齢期においては「通院やデイサービスなどの通所に便利な立地」であることが重要となります。車の免許を返納した場合の移動手段についても考えておきたいですね。

■住み替えのための資金計画

住み替えを考えるとき、やはり気になるのはお金のことです。
住み替えのお金は、①今住んでいる家の売却費用を充てる方法、②住宅ローンを利用する方法、③退職金や預貯金を利用する方法などが考えられます。
今住んでいる家を売ってもまだローンが残っていて、預貯金などを充ててもカバーしきれない場合、「住み替えローン」(家を売ったお金では返しきれない残債を、新しい家の購入資金に上乗せして借りることができるもの)が使えます。しかし、このローンには注意が必要です。なぜなら、新しい家の担保価値を超えたお金を借りることになるため、返済ができなくなったときに家を売っても足りず、老後の生活が圧迫されてしまう恐れがあるからです。
住宅ローンを組む際には「借りられる額」ではなく「返せる額」を借りるようにし、無理のない資金計画を立てましょう。そして、退職金や預貯金には安易に手をつけず、計画的に取り崩すようにしましょう。

通勤の便利さや子育ての環境を重視して家を買った方は、仕事をリタイアし、子どもが独立した後の暮らしをイメージしてみてください。住み替えの可能性が少しでもあるようでしたら、現役のうちに資金面の準備に取り掛かりましょう。

(執筆者:萩原有紀)

参考:https://www.mlit.go.jp/common/001287759.pdf

「平成30年度 住宅市場動向調査報告書 国土交通省 住宅局」

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