2025年には65歳以上の約5人に1人が認知症になると予想されています。認知症は誰もがなり得るものであり、家族や身近な人が認知症になることなども含めて、多くの人にとって身近なものになっています。
認知症の予防に取り組んだり、認知症になった場合に備えるためには、正しい知識と十分な情報が必要になります。大樹生命は、認知症に関する最新の情報をお届けいたします。
アルツハイマー型認知症は脳血管障がい?
アルツハイマー型認知症と脳血管障がいとの関係性
アルツハイマー型認知症は、これまで脳内のアミロイドβの蓄積や神経原線維変化といった神経変性疾患として理解されてきました。脳の神経の変性が、徐々に脳の神経細胞の破壊を進め、記憶や思考力の低下などの症状を引き起こすと考えられています。
しかし、最近の研究により、アルツハイマー型認知症の発症や進行に、脳の血管障がいが関与している可能性が示唆されています。
研究によると、アルツハイマー型認知症の脳では、神経の変性が起こる前に特定の領域における血流低下が観察されることや、脳の微小な血管に異常がみられることが報告されています。脳血管の血流低下や血管の異常などは、脳細胞への酸素や栄養の供給が不十分となり、神経細胞の機能障がいや破壊を引き起こす恐れがあります。*1
また、高血圧や糖尿病、脂質異常症、喫煙などは血管の健康を損なう要因であり、さらには、アルツハイマー型認知症のリスクを高めることも示されています。これらの要因は脳血管の健康に悪影響を及ぼし、アルツハイマー型認知症の発症や進行に関係している可能性があるのです。*2
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アルツハイマー型認知症の新たな治療
アルツハイマー型認知症の治療法としては、脳内の神経伝達物質や脳内のNMDA受容体に作用して、記憶力の低下などの症状を緩和する薬や、リハビリテーションによって認知機能や心身機能に働きかけて生活の質を維持する方法などが知られています。
2023年9月にはアルツハイマー型認知症の脳に蓄積するアミロイドβを取り除いて進行を抑える薬が厚生労働省により承認されました。
そのほかにも超音波を利用した新しい治療法も開発されています。
この治療は、低出力パルス波超音波を頭に照射することで、一酸化窒素合成酵素の増加を促し、脳の微小血管の循環を改善させるものです。アルツハイマー型認知症患者への低出力パルス波超音波(LIPUS)治療は、認知機能を維持するだけでなく、改善する可能性も示唆されています。*3
この治療法は、脳血管性認知症への効果も確認されており、副作用の報告もなく、リスクが少ない認知症の治療法として期待されています。
脳血管の健康を維持して認知症を予防する睡眠習慣
睡眠は私たちの健康を支える大切な時間です。睡眠は、深い眠りであり身体や脳の回復を促すノンレム睡眠と、脳が活発に働き身体は休息するレム睡眠の2つの睡眠で繰り返し構成されています。
レム睡眠は眼球が素早く動き、夢を見る睡眠段階としても知られています。
ノンレム睡眠期の身体の回復は成長ホルモンの分泌が増加し、ストレスホルモンの分泌が減少するホルモン環境によってもたらされていることが示唆されています。しかし、レム睡眠と心身の健康の関連についてはよく知られていません。
ノンレム睡眠とレム睡眠の一晩における割合はノンレム睡眠が約80%、レム睡眠が約20%を占めています。レム睡眠は新生児期には約50%を占めていますが小児期には約20%まで減少し、そこから徐々に減っていきます。認知症患者のレム睡眠は発症初期から減少すると言われており、レム睡眠時間が少ないと、アルツハイマー型認知症などの認知症を発症するリスクが高まる可能性があります。
レム睡眠中のマウスの脳血管の状態を研究した報告によると、脳の毛細血管に流れる赤血球の数は、ノンレム睡眠中よりも、レム睡眠中の方が2倍近く多いことがわかりました。レム睡眠の時間が少なくなると、脳の血管における物質交換が減少し、脳細胞の機能低下や老廃物の蓄積が起こりやすくなって、認知症のリスクが高くなると考えられています。*4
これにより、レム睡眠をしっかり確保することが脳の健康を維持し、アルツハイマー型認知症などの認知症を予防することが示唆されました。レム睡眠の時間を増やす方法の解明に向けて、レム睡眠を抑制する神経ペプチドのオレキシンやニューロテンシンの研究も進められています。*5
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質の良い睡眠のために、体と向き合うリラックスタイムを
レム睡眠の時間を十分に確保するためには、睡眠全体の質を改善するのが近道です。
覚醒‐睡眠のリズムを整えるためには、起床・就寝の時間を守り、日中は日光を浴びてアクティブに過ごします。
就寝前は睡眠の質を低下させるスマートフォンやパソコンなどのブルーライトを発する電気機器の使用やカフェインの摂取を避け、リラックスする時間を作りましょう。就寝する部屋の温度や湿度、明るさなどの環境を整えることも大切です。
脳血管の健康と十分なレム睡眠がアルツハイマー型認知症と関係していることがわかってきています。
レム睡眠時間の確保のために、睡眠全体の質を改善することがアルツハイマー型認知症の予防につながる可能性があります。まずは健康な脳を保つ一歩として、寝る前のストレッチやヨガ、瞑想などのリラックスタイムをつくる意識をしてみませんか?
- 【参考文献】
- *1J.C de la Torre et al. Evidence that Alzheimer’s disease is a microvascular disorder: the role of constitutive nitric oxide Brain Research Reviews 34(3)19-136.2000
- *2J.C. de la Torre Alzheimer Disease as a Vascular Disorder Stroke 33(4)1152-1162.2022
- *3Hiroaki Shimokawa et al. A Pilot Study of Whole-Brain Low-Intensity Pulsed Ultrasound Therapy for Early Stage of Alzheimer’s Disease (LIPUS-AD): A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial. The Tohoku Journal of Experimental Medicine 258(3) 167-175.2022
- *4Chia-Jung Tsai et al .Cerebral capillary blood flow upsurge during REM sleep is mediated by A2a receptors Cell Reports 36(7) 109558 2021
- *5ヒト脳脊髄液を用いたレム睡眠を調整する神経ペプチドの解明 https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21K07538/
- *6厚生労働省 健康づくりのための睡眠ガイド2023 (案)【PDF】https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001181265.pdf , https://www.dietitian.or.jp/trends/upload/data/342_Guide.pdf
当記事は 『認知症予防習慣』 のコラムを引用して作成したものです。
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