大樹認知症サポートサービス

認知症情報 vol.12 2022.7

2025年には65歳以上の約5人に1人が認知症になると予想されています。認知症は誰もがなり得るものであり、家族や身近な人が認知症になることなども含めて、多くの人にとって身近なものになっています。
認知症の予防に取り組んだり、認知症になった場合に備えるためには、正しい知識と十分な情報が必要になります。大樹生命は、認知症に関する最新の情報をお届けいたします。

親を認知症にさせないために ~ 食事に関するアドバイス①

食事に関するアドバイス① 『脳の炎症抑制』

認知症は歳を重ねることで発症する可能性が高くなる病気ですが、予防ができる病気です。認知症について、子が病気を理解して、予防の手助けをしてくれることほど心強いものはありません。
子世代にとっても、親が認知症になってから大変な思いをするよりも、一緒に予防に取り組む方が得策です。
認知症の予防策は食事と生活の中にあるといいます。離れて暮らしている親にも、いつまでも元気でいてもらえるよう、子世代からアドバイスできることがあります。

《食事に関するアドバイス》

  • (1)食事をとらない時間をしっかり確保する(脳の炎症抑制)
  • (2)小腹がすいたら、甘いものでなくタンパク質を(高血糖による血管損傷を防ぐ)
  • (3)精製された白い主食は卒業する(糖化による老化促進を阻止)
(1)食事をとらない時間をしっかり確保する(脳の炎症抑制)

加齢とともに認知症へ進行させる原因の一つに、脳のなかで起こる炎症があげられます。脳で生じる炎症を鎮めるための効果的な方法として、空腹の時間をしっかり設けることがあげられますので、最初のアドバイスとしてご紹介します。

●脳のなかの炎症とは?

炎症とは身体のなかの「火事」のようなもので、これは免疫の働きによっておこります。免疫は、人の身体に備わった、病気を防いで治す働きをする身体の仕組みです。例えば、風邪をひくと熱が上がり、咳や鼻水、だるさなどの症状が出ます。これは、免疫細胞が病原ウイルスや細菌を消滅させようと戦うことで生じる「火事」(炎症)です。ケガをすると赤く腫れ、痛みが出ます。これも、免疫細胞が患部を治そうと働くために起こる「火事」(炎症)です。
炎症とは、免疫が異物を退治し、身体を守り、治そうとする反応のことで、身体を健康に整えるためには必要な反応です。問題なのは、炎症の反応が強く現れすぎてしまうことで、免疫細胞が健康な細胞まで攻撃して炎症が悪化していくことです。
人の脳は、加齢とともに炎症が広がりやすい状態になります。認知症を防ぎ、脳の状態を改善していくには、過剰な炎症を鎮めなくてはなりません。

●空腹の時間をつくることで炎症が抑えられる

認知症の症状を改善するとして話題になったリコード法という治療法があります。そのリコード法でも提唱されているように、空腹の時間をしっかりと設けることで脳の炎症を抑えることができます。

●強力な抗炎症作用をもち、脳で働く「ケトン体」

空腹の時間をしっかり設けると、身体はブドウ糖が著しく減った状態になり、ブドウ糖に代わるエネルギー源として肝臓で「ケトン体」が産生されます。

「ケトン体」とは、β-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトンの総称です。このうちβ-ヒドロキシ酪酸には、強力な抗炎症作用と抗酸化作用があります。強力な抗炎症作用のある「ケトン体」がブドウ糖に代わるエネルギー源として体中で使われることで、脳では炎症がやわらぎ、脳内の環境が良くなり、健康な状態を保つことができると考えられています。

  • ※インスリンの不足している1型糖尿病の方には、ケトアドーシスが生じる可能性があるため、医師へご相談ください。

●「ケトン体」はブドウ糖のエネルギーがなくなると産生されます

私たちの身体は、ブドウ糖からエネルギーを作り出していますが、血液中のブドウ糖がなくなると、今度は肝臓で備蓄されていたグリコーゲンからブドウ糖を新たに生み出して、エネルギーを作ります。この時点でもエネルギーの補給がないと、ブドウ糖からエネルギーを作ることができなくなり、最終的には身体に蓄えられた中性脂肪を分解し、肝臓で「ケトン体」の産生が始まります。「ケトン体」は、ブドウ糖に代わるエネルギーとして体中をめぐります。

このように、「ケトン体」が産生されるためには、ブドウ糖からのエネルギー不足の状態を作らなくてはなりません。そこで必要になるのが、まとまった空腹の時間です。空腹の時間をしっかり設けることで、ブドウ糖のエネルギーを使い切ります。
とはいえ、まとまった空腹の時間をとるのはなかなか難しいものです。とりやすい例としては、夕食を済ませたあとから、翌朝起床までの時間であれば、睡眠時間とあわせてしっかりと空腹の時間を確保することができます。

●朝食を中鎖脂肪酸におきかえる

ケトン体の産生量は、空腹の時間を長く設ける一方で、中鎖脂肪酸の摂取によってさらに増やすことができます。中鎖脂肪酸は、他の油のように体内を巡ってゆっくり分解・蓄積されるのではなく、直接肝臓に運ばれ、すみやかにケトン体に分解されてエネルギー源として使われる性質があります。
中鎖脂肪酸とは一体何の油かというと、ココナッツオイルやMCTオイルのことです。最近ではスーパーでも販売されていて、手に入りやすくなっています。

●食事をとらない時間をしっかり確保するメリット

空腹の時間をしっかり取ることで得られるメリットは、ケトン体の作用だけではありません。次のように、たくさんの健康にかかわる効果があるといわれています。

  • ■ケトン体の抗炎症作用により、脳のなかの炎症を抑えられ、認知症になりにくい状態になると考えられる。
  • ■がん細胞の栄養にならず、体内に発生した がん細胞の成長を抑える可能性がある。
  • ■オートファジー効果により、炎症や酸化で壊れてしまったタンパク質が分解され、新しいタンパク質を作り出す。
  • ■サーチュイン遺伝子が活性化し、長寿やアンチエイジングの効果が期待できる。

食事をとらない時間をつくることで、ケトン体の持つ抗炎症作用、抗酸化作用が働き出し、脳の炎症を抑えることにつながります。あたまの環境も改善され、認知症になりにくい状態に変化してくるでしょう。親の認知症予防の習慣のひとつになるよう、提案してみてはいかがでしょうか。

<参考文献>

  • ■The ketone metabolite β-hydroxybutyrate blocks NLRP3 inflammasome-mediated inflammatory disease. Yun-Hee Youm,et al. Nature Medicine volume 21, pages263-269(2015).
  • ■藤田絋一郎「親をボケさせないために、今できる方法」
  • ※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。
  • ※当記事の内容は、上記発行年月時点の情報に基づき記載しております。発行後の法令・制度等の改正、医療の状況の変化等は考慮しておりませんのでご注意ください。
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