大樹認知症サポートサービス

認知症情報 vol.3 2020.12

2025年には65歳以上の約5人に1人が認知症になると予想されています。認知症は誰もがなり得るものであり、家族や身近な人が認知症になることなども含めて、多くの人にとって身近なものになっています。
認知症の予防に取り組んだり、認知症になった場合に備えるためには、正しい知識と十分な情報が必要になります。大樹生命は、認知症に関する最新の情報をお届けいたします。

高齢者の認知機能の特徴と関わり方

人は年齢を重ねることで身体機能ばかりか理解や判断、記憶などの機能も変化していきます。例えばなかなか新しいことを覚えられなくなったり、会ったことがある人なのに名前を思い出せなかったりということが増えてきます。しかし、高齢の方々から学ぶこともたくさんあります。さらに、生涯学習に生きがいを見出し、学び続ける高齢者も少なくありません。
ちまたでは、認知症の高齢者が問題視されています。しかし、人は年齢を重ねるごとに失うことばかりではなく、様々な経験をもとに、知識やそれらに関連する能力を深めていくことができます。
今回は、高齢者の知能の特徴と関わり方について解説していきます。

加齢と知能

私たちに備わっている知能は「流動性知能」と「結晶性知能」の二つの側面に分けることが一般的です。
流動性知能は新しいことを学習して覚え、それを処理・操作していく知能です。直面する問題に対処し、解決する手立てをスピーディーに行うときに流動性知能が重要になります。流動性知能は10代後半から20代中ごろまでをピークに成長しますが、その後は徐々に低下していきます。

もう一つの結晶性知能は日常生活を送っていく上で、経験に基づき身についていく知能です。例えば「赤信号で横断歩道を渡らない」という一般常識、乳幼児から両親をはじめとするコミュニティーと関わることで発達する言語能力、他者と円滑に交流するためのコミュニケーション能力などが結晶性知能に分類されます。結晶性知能は20歳以降もゆるやかに発達していき、高齢になっても20歳ごろの結晶性知能を維持できるといわれています。
これら2つの特徴として、流動性知能はある年齢を境に低下しやすく、結晶性知能は維持することが可能であるということがいえます。

加齢と認知機能

認知機能とは自分を取り巻く世界から得た情報を理解し判断するといった論理的な知的機能のことをいいます。
「入ってきた情報を処理する」ということでいえば、人に会ったとき、顔と名前を覚える記憶力や、買い物の際に購入品の金額を見て合計金額を算出する計算力、相手が話している言葉や新聞などに書かれていることを理解する力、言葉を用いて意思を伝えるといった言語能力も認知機能に含まれます。

高齢者の認知機能の特徴として、とっさの判断や素早い処理能力(流動性知能)は低下しているといわざるを得ない部分もあります。一方で、学校で学んできたことや、仕事や社会生活で経験したことから得た知能(結晶性知能)は衰えていないことがあります。 むしろ、言葉の分析、単語力、語学能力、理解力、洞察力などは、年齢を重ねることでより深まっていくと考えられます。そのことは、晩年に傑作を残している文学者や芸術家が少なくないことや、大きな決断をしなくてはいけない企業経営者に60歳以上の人が多いことからも納得されることと思います。身近なところでは、日常生活の経験により積み上げられた「おばあちゃんの知恵」も高齢者の優れた認知機能の一つといえるでしょう。

高齢者とのコミュニケーション

ここまで、年齢を重ねていくことでの認知機能の変化を説明してきました。
老いることは様々な機能の低下をきたし、それを自覚する本人は強く不安を感じるものです。したがって、高齢者と関わる際には、相手を不安にさせないようにすることが重要です。まずは、その方の生活史(生きてきた歴史)を知り、相手を理解していく必要があります。相手を理解することで、適切な関わり方を探っていくことができます。
その上で、以下のことを意識してみましょう。

(1)低めの声ではっきりと話す

年齢を重ねることで徐々に聴力は下がっていき、とくに高い音が聞き取りにくくなります。電話や目覚まし時計などの電子音が鳴っているのに気づかないことがあるのはそのためです。声が高めの人は声のトーンを低めにしてはっきりと話すと、高齢者に伝わりやすくなります。

(2)ゆっくりと話す

年齢を重ねると外から入ってくる情報を即座に処理することが苦手になっていきます。矢継ぎ早に話しかけると何を言っているのか分からず、会話が成立しなくなることがあります。分からなかったら聞き返せばよいのですが、何度も聞き返しているうちに「私は耳が遠くなっている」「若い人が話すことが分からない」などネガティブな感情やストレスを抱かせてしまうこともあるかもしれません。できる限りゆっくりと優しい口調で話すことを意識してみましょう。

(3)肯定的な話し方をする

認知機能は、精神的なストレスが溜まったりうつ状態になったりすることで低下するといわれています。否定的な言い方ばかりすると自己肯定感が減り、ストレスが溜まりやすくなります。「できないこと」を指摘するのではなく、「できること」に目を向けて、肯定的な話し方をするように心がけましょう。

(4)頭を使う趣味を勧める

筋肉は使えば使うほど発達していくように、認知機能も使えば使うほどその機能を維持しやすくなります。頭を使う趣味を勧めて、それを会話の糸口にすると認知機能の維持とともに高齢者との円滑なコミュニケーションを図ることもできます。例えば囲碁や将棋、ボードゲームなどは頭を使いつつ対戦相手との会話を楽しむこともできるでしょう。また、日記を書くこと、俳句や短歌をつくること、新聞を毎日読むことなども認知機能の維持に役に立つ趣味といえます。

ちょっとした勘違いや物忘れに対して、怒ったり、冷たくしたり、繰り返し否定をしたりすると、高齢者のストレスは大きくなり、円滑なコミュニケーションが図れなくなってしまいます。相手の反応をうかがいながら、ゆっくりと余裕をもって対応していくことが大切です。高齢者は、同じ年齢であっても性別だけではなく、生い立ちや生活環境などに大きな影響を受け、個人差がとても大きいものです。今回解説した高齢者の知能や認知機能の特徴を理解し、関わることで今までとは違うその人が見えてくると思います。

<参考>

  • ・厚生労働省「みんなのメンタルヘルス総合サイト」
  • ・中村博子著『発達心理学』(2010年、人間総合科学大学発行)
  • ・松田隆夫編、藤健一、八木保樹、星野祐司、土田宣明、柴田直峰、福原浩之共著『心理学概説―心と行動の理解ー』(2008年、培風館発行)
  • *当記事は2019年5月時点で作成されたものです。(医師監修) 記事転載元:『T-PEC Channel』
  • ※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。
  • ※掲載記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。
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