大樹認知症サポートサービス

認知症情報 vol.5 2021.2

2025年には65歳以上の約5人に1人が認知症になると予想されています。認知症は誰もがなり得るものであり、家族や身近な人が認知症になることなども含めて、多くの人にとって身近なものになっています。
認知症の予防に取り組んだり、認知症になった場合に備えるためには、正しい知識と十分な情報が必要になります。大樹生命は、認知症に関する最新の情報をお届けいたします。

要介護の前段階 『フレイル』 について

これまで「老化現象」とされてきた筋力や活力の衰えた段階を、日本老年医学会では「フレイル」と名づけました。
超高齢社会の今、健康寿命の延伸が課題となっています。高齢者一人ひとりが年齢にとらわれず、自らの責任と能力において自由で生き生きとした生活を送るために、このキーワードはとても重要な意味を持ちます。今回は、この「フレイル」について解説していきます。

「フレイル」とは

フレイルとは、虚弱(きょじゃく)などを意味する「Frailty(フレイルティ)」の日本語訳です。
日本老年医学会では、フレイルを「要介護状態に至る前段階として位置づけられるが、身体的脆弱性のみならず精神・心理的脆弱性や社会的脆弱性などの多面的な問題を抱えやすく、自立障がいや死亡を含む健康障がいを招きやすいハイリスク状態を意味する。」と定義しています。フレイルは、健康と要介護の中間に位置する状態と考えられており、この段階で正しく対処することで、健康な状態に戻ったり要介護状態になるまでの期間を延ばしたりすることができると考えられています。

フレイルは、様々な医学的な身体機能と関連しており、病気やけがによる入院をきっかけにそのまま介護状態になる人も少なくありません。要介護状態の予防対策の第一歩として、まずはフレイルについて学んでいきましょう。

「フレイル」の多面的側面

フレイルは、加齢に伴う身体的な面、精神・認知的な面、社会的な面など、多面的な要因が組み合わさることで生じるといわれています。その要因には以下のようなものがあります。

フィジカル・
フレイル
フィジカル・フレイルは「身体」の虚弱を指します。
加齢による食事量の減少、筋力量の低下、サルコペニア、ロコモティブシンドロームなどの要因により身体機能が低下していきます。
《おもな症状》飲み込む・食べる機能の低下、歩くスピードの低下、転びやすい、疲れやすいなど。
メンタル・
フレイル
メンタル・フレイルは、「精神」の虚弱を指します。
年齢を重ねることで精神的なストレスに弱くなり、不安を感じやすくなったりします。また、認知機能が低下することで物覚えが悪くなったり、言いたいことがうまく伝えられなくなったりします。このようなストレスとなりうることが多くなり、少しのストレスに対しても回復できない状態となることがあります。
《おもな症状》記憶・判断力の低下、抑うつ傾向など
ソーシャル・
フレイル
ソーシャル・フレイルは、「社会性」の虚弱を指します。
意外なようですが、一人暮らしの高齢者が閉じこもりがちになったりすることです。
  《おもな症状》家族構成の変化、社会と交流する機会の減少など。

これらは、心身の自立を妨げる要因ともなります。

例えば、高齢者が一人暮らしによって閉じこもりがちになり、人とのつながりがなくなっていくと、精神心理面へ影響を及ぼします。また、他者と会話をしない生活が続くことで認知機能の低下にもつながるといわれています。外出の機会や他者との交流がなくなることで、活動量の低下につながり、また、消費するエネルギーが減ることで、食欲や食べる量も減っていきます。これらにより、栄養状態の低下(低栄養)、さらには身体機能の低下をきたす、といった悪循環(「フレイル・サイクル」:以下の[図1])が生じやすくなります。

図1:フレイル・サイクル
  • 図1、Xue QL, Bandeen-Roche K, Varadhan R, et al.『Initial Manifestations of Frailty Criteria and the Development of Frailty Phenotype in the Women’s Health and Aging Study II』「The Journals of Gerontology: Series A(Volume 63, Issue 9, September 2008)」 https://academic.oup.com/biomedgerontology/article/63/9/984/692763 よりティーペックが作成。
【フレイルの評価基準】

フレイルには統一された評価基準はありませんが、厚生労働省の研究班により、日本版の基準(J-CHS基準)が作成されました。次の[表1]の3つ以上に該当するとフレイルと判定され、1~2つに該当する場合には、プレフレイル(フレイルの前段階)と判定されます。

表1:日本版CHS基準(J-CHS基準)T-PEC Channel
  • 表1、厚生労働省、食事摂取基準策定検討会(第3回)『食事摂取基準(2020年版)の策定方針について(2018年11月9日)』https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000209572.pdf よりティーペックが作成
終わりに

超高齢社会となり、高齢者のとらえ方やその状態などに対する新たな言葉が多く提唱されています。こういった、高齢者に関する新たな定義づけが行われるのは、年を重ねることの後ろ向きな面だけではなく、早期に発見することで介護状態を予防することができる、というような前向きな考え方から生じています。特に「フレイル」は、身体的な面のみならず、精神的な面、社会的な面からも着目されており、医療だけではなく、多方面からのかかわりが重要であることを示しています。
医療だけに頼る時代は終わりました。自分自身、そして自分と関わるたくさんの人々が超高齢社会となった日本を支える大切な存在です。まずは、少しの変化に気づくことからはじめ、その後さまざまな改善策に挑戦してみる必要があります。
高齢となったご本人やそのご家族、介護に従事する方々だけではなく、だれしもがいずれむかえる高齢期を見据え、加齢による変化について知っておく必要があるのではないでしょうか。

<引用・参考>

  • *当記事は2019年7月時点で作成されたものです。(医師監修) 『T-PEC Channel』より抜粋して転載
  • ※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事がすべてのケースにおいて当てはまるわけではありません。
  • ※当記事の内容は、上記発行年月時点の情報に基づき記載しております。発行後の法令・制度等の改正、医療の状況の変化等は考慮しておりませんのでご注意ください。
  • ※掲載記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。
  • ※診断や治療を必要とされる方は、適切な医療機関を受診の上、医師の指示に従ってください。
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