Vol.42
「高齢者」の定義が65歳⇒75歳になるとどうなる?
2017.07.01
高齢化が進む日本で、「高齢者」の定義が変わるかも知れません。2つの学会から肉体的にも若返っていることが報告されており、「高齢者は75歳以上」などと定義される可能性も。そうすると何がどう変わる可能性があるのでしょうか。
■65歳はもはや高齢者ではない?
「2015年簡易生命表」によると、平均寿命は男性80.79歳、女性87.05歳でした。30年前の平均寿命が男性74.78歳、女性80.48歳だったことと比べると、男性が6歳、女性が6.6歳延びています(図表1)。平均寿命の延びは止まる様子はなく、医療技術の進歩などで今後さらに延びると予想できそうです。
長寿化が進む一方で、日本では、高齢者は「65歳以上」と定義され、社会のシステムがそれに準じたものになっています。しかし、長寿化がますます進む中、定年直後の方を見ても元気で若々しく、「高齢者」という表現は違和感があります。むしろ高齢者扱いを嫌がる人も少なくありません。
そんな中、高齢者=65歳という定義が実情に合ったものであるのかという疑問に対し、2013年に、日本老年学会と日本老年医学会が合同ワーキンググループを立ち上げ、高齢者の定義についてさまざまな角度から検証してきました。その結果として、高齢者の定義を「75歳以上」に引き上げるべきとの提言が、2017年1月に発表されました。
■高齢者の定義が「75歳以上」に?
詳細は「高齢者に関する定義検討ワーキンググループ報告書」にまとめられていますが、概要としては次のようになります。
- ・高齢者の心身の健康に関する種々のデータを検討した結果、現在の高齢者の体力は向上し、病気の罹患率も下がり、残った歯の数も多くなっている。つまり、10~20年前と比べて5~10年「若返り」がみられる。
- ・65~74歳の前期高齢者においては心身の健康が保たれ、活発な社会活動が可能な人が大多数を占めている。
- ・各種の意識調査によると「65歳以上」を高齢者とすることに否定的な意見が強い。
- ・内閣府の調査でも「70歳以上あるいは75歳以上」を高齢者と考える意見が多い(図表2)。
これらを踏まえ、ワーキンググループとしては、高齢者について以下のように区分することを提言しています。
<高齢者の新定義(高齢者に関する定義検討ワーキンググループの提言)>
65~74歳 ⇒准高齢者 (pre-old) 約1766万人
75~89歳 ⇒高齢者 (old) 約1506万人
90歳~ ⇒超高齢者 (oldest-old, super-old) 約196万人
なお、高齢者の定義と区分を再検討することの意義として2点が挙げられています。
・従来の定義による高齢者を、社会の支え手でありモチベーションを持った存在と捉え直す
・迫りつつある超高齢社会を明るく活力あるものにする
つまり、65~74歳の「准高齢者」は仕事やボランティアなどで「支える側」に回るべきことが示唆されています。
ただし、「高齢者の身体能力の改善傾向が今後も続くかどうかは保証されておらず、次世代への健康づくりの啓発が必要」とも書かれています。
■定義が変わると何が起こる?
WHO(世界保健機構)の定義では高齢者は「65歳以上」とされているので、もしも、高齢者は「75歳以上」という日本独自の基準に基づいて社会のシステムが変えられていくとしたら、どのようなことが起こるでしょうか?
前述のとおり、65~74歳の「准高齢者」は仕事やボランティアなどで「支える側」に回るべき、ということになると想定すれば、次のようなことが想像できます。ここからはあくまでも個人的な推測に過ぎませんので、ご注意ください。
<雇用>
2025年までに65歳定年となりますが、その後は70歳定年となる可能性も? 実際には、個人差もあるでしょうから、再雇用の期間が70歳(企業によっては75歳)までに延長されるような形でしょうか。
<年金>
公的年金の受給開始年齢が、現在の65歳から70歳(または75歳)へと延びる可能性もあるのではないでしょうか。また、国民年金の満額受給のための保険料納付期間も現在40年間であるものが45年間等に延びる可能性も出てきたり…?
<医療>
74歳までは現役と同じ3割負担になり、高額療養費も現役と同じになる可能性もあるのではないでしょうか。高齢者の医療費負担割合や高額療養費などの軽減は75歳以降でないと受けられなくなる可能性も…。
<介護>
今国会で、2018年4月から現役世代並所得者(年金収入だけで単身者なら年収383万円以上など)は介護サービスの利用料が3割負担になることが決定しましたが、すでに高齢者でも所得が高い人や資産の多い人の公的介護サービスの負担は重くなる傾向にあります。この傾向が強まる可能性もあるかもしれません。さすがに、第1号被保険者が65歳から70歳等になる、などということはないと思われますが…。
あくまでも推測の域を出ないことを重ねて記載しておきます。しかし、財政的問題を抱える年金や医療・介護に何かしらの変更が現れることは間違いないでしょう。
老後資金を考える際には、ますます自助努力が欠かせないといえます。iDeCo(個人型確定拠出年金)や個人年金保険その他で資金面の準備をするとともに、生涯現役でいられるよう健康面にも気を使う必要があります。また、雇用保険の教育訓練給付金なども上手に使って、働くための武器を磨くことも必要です。
【参照】
「高齢者に関する定義検討ワーキンググループ 報告書」
内閣府「平成26 年度 高齢者の日常生活に関する意識調査」
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