Vol.57
「ハイパーインフレ」ってどんなもの?備えるには?
2018.10.10
最近、新聞を読んでいて、「ハイパーインフレ」「デノミ」「通貨危機」といった言葉を目にする機会が増えた気がします。他国のこととはいえ、現実に起きている様子を報道などで知るとドキドキします。備えておくには何か方法があるのでしょうか。
●トルコリラが急落!
2018年8月にトルコの通貨リラが急落して大きなニュースになりました。日経平均も大きく下げました。2018年1月は1ドル=約3.8リラだったものが、8月13日には1ドル=7リラ台と過去最安値となりました。リラの価値は半分強になったわけです。
いきなり急激なリラ安が進んだことで、トルコでは輸入品が高くなって物価も急上昇。トルコ国民の生活は混乱状態に陥りました。影響は国内にとどまらず、ブラジルやアルゼンチン、インド、インドネシア、南アフリカなど新興国の通貨安にも飛び火しました。こうしたリラ急落をきっかけとする通貨危機は「トルコショック」と呼ばれています。
トルコショックの引き金は外交的なものでした。トルコがテロ組織支援などの罪で拘束している米国人牧師について、トランプ大統領が釈放を要求しました。それに応じなかったことから、アメリカが鉄鋼・アルミニウムへの関税引上げなど経済制裁を実施。トルコも米国製品への関税引き上げなどで報復し、リラが売り込まれました。
●ハイパーインフレとは?
今回のトルコショックのきっかけはトランプ大統領の選挙対策(11月の中間選挙)のため、選挙が終われば収束するとみられています。しかし、政治の采配から、一歩間違うと世界経済を揺るがす大きな問題になる可能性があると思うと恐ろしいですね。
戦争や紛争などでその国の経済が悪化すると、ハイパーインフレが起こることがあります。インフレとは物価が上がることを指しますが、ハイパーインフレとは、短期間に激烈なインフレが進むことをいいます。例えば、200円のカップ麺が20万円、200万円になってしまうような、尋常でないインフレです。長引けば、国民は非常に苦しい生活を強いられることになります。
ハイパーインフレが発生するのは、その国や通貨の信用力が下がったときでもあります。通貨の価値が著しく低下し、国民が保有しているお金の価値が下がってしまいます。信用力を失い、破綻しそうな国の通貨を持っていたいと思う人はいませんので、多くの人はその通貨を手放そうとします。そのため、通貨の暴落はさらに進み悪循環となる場合もあります。
●2000年代に起きたハイパーインフレの例
近年、実際に起きたハイパーインフレの例を見てみましょう。2000年代に入ってからだけでも、ジンバブエ、イラン、北朝鮮、ベネズエラと4か国でハイパーインフレが起きました。このうち、ジンバブエとベネズエラの例を取り上げます。
<ジンバブエ>
ジンバブエ政府は1980年に独立した後、旧支配層だった白人農家の土地を収用する法律を成立させるなどして、白人農民を海外へ追い出します。そのせいで農業が成り立たなくなり、さらには干ばつも重なって食料不足に陥りました。その結果、2000年代にインフレが激しくなり、2008年にはインフレ率が年数百万%となり、2度のデノミネーションが実施されました。
<ベネズエラ>
ベネズエラでは今、進行形でハイパーインフレに直面しています。2015年の原油価格の急落で、石油の輸出が主な産業のベネズエラは危機に陥り、ハイパーインフレが発生しました。政府は物の価格を固定しようとしましたが、品物が闇に流れてさらにインフレが進み、裏目に。2018年8月のインフレ率が年率20万%に達し、その後デノミネーションを実施。しかし、ハイパーインフレは今も止まらず、通貨安も進んでいます。
●デノミネーションとは?
デノミネーション(略してデノミ)とは、通貨の単位を切り下げることを指します。ハイパーインフレが起きた国などで、通貨の桁数が大きくなりすぎて経済活動に支障が出るのを抑えるために行われます。なお、デノミはその国の資産だけでなく、負債に対して同様に適用されます。
実際に2000年代にデノミが行われた例としては、トルコ(100万分の1)やルーマニア(1万分の1)、ジンバブエ(100億分の1、1兆分の1)、ベネズエラなどがあります。
ジンバブエでは同じ年に2回もデノミが行われました。「1兆分の1」とは1兆円が1円の価値になってしまうことを指します。その後、自国通貨を捨て、米ドル等を使用することになって、ようやくハイパーインフレは終息しました。
一方、ベネズエラでは、2018年8月、デノミが行われました(10万分の1)が、どうやら終息には向かっておらず、今もハイパーインフレが続いているようです。
●ハイパーインフレに備えるには?
ハイパーインフレも、その中で起きてくるデノミも怖いことだと思いますが、何か備えになる方法はあるのでしょうか。
トルコショックを目の当たりにし、現実にハイパーインフレが起こっていることを知ると、1,000兆円を超える世界一の債務を抱える日本は大丈夫なのか心配になってきます。しかし、多くのエコノミストは「日本でハイパーインフレが起こる可能性は低い」と口を揃えていいます。なぜなら、国や中央銀行が、ハイパーインフレが起こらないよう有効な手を打つからだそうです。
日本では起きない可能性が高いとはいえ、万が一、ハイパーインフレが起きて、円が紙切れになるようなことがあった場合に備えて、どのような資産を保有しておくといいのでしょう。
対策として有効なのは現物資産と外貨資産を持つことだといわれています。現物資産は金などです。仮に日本円の価値が低下するようなことがあった場合、すべてを現金で保有している場合と、一部を金で持っていた場合では、結果が違ってくることは容易に想像できます。金だけでなく、ダイヤモンドのような希少な宝石類も価値が維持できます。
もう1つは外貨資産です。ハイパーインフレに見舞われて日本円の価値が急落した場合でも、外貨資産を持っていればリスクを軽減できるとされています。ただし、通貨はしっかり選ぶ必要があります。今回のトルコショックに見られるように、新興国の通貨は影響を受けやすいため、やはり米ドルやユーロなど安定的な通貨がよさそうです。
「インフレに対応できる資産」としては株もありますが、ハイパーインフレで経済が混乱する中、企業が正常に経営を続けているかどうかは不明です。特にハイパーインフレが長期化した場合は、破綻に追い込まれる企業も出てくる可能性もあります。
私たちの国で、ハイパーインフレに見舞われる可能性は低いとはいえ、資産の種類を分散して持つことの意識を持っておきたいものです。
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