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Vol.75

2020年4月から「同一労働同一賃金」がスタート。何が変わる?

2020.04.01

2020年4月から「同一労働同一賃金」がスタートします。正規雇用労働者と非正規雇用労働者間の待遇差をなくす狙いで設けられる制度ですが、どのような内容でどのような変化がもたらされるのか、概要を押さえておきましょう。

■「同一労働同一賃金」とは?

「同一労働同一賃金」は、2019年4月に施行された「働き方改革関連法」に基づき、大企業においては2020年4月から、中小企業においては2021年4月からスタートする制度です。実際には、「パートタイム・有期雇用労働法」が改正され、「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」の1つとして始まります。

「同一労働同一賃金」が導入された狙いは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者間(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間にある不合理な待遇差をなくすことです。

非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)に関して改善される内容は下記のようなものです。「同一労働同一賃金」と主に賃金のことが強調されていますが、実際には広い意味の待遇改善が含まれます。

(厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」より)

「同一労働同一賃金」導入後は、非正規雇用労働者は、「正社員との待遇差の内容や理由」など自身の待遇について事業主に説明を求めることができるようになります。行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続(事業主と労働者間の紛争を裁判をせずに解決する手続き)も整備されています。

■なぜ導入されたのか?

「同一労働同一賃金」が導入された背景には、非正規雇用労働者の増加があります。2018年時点で雇用者の4割近くを非正規雇用労働者(総務省「労働力調査」)が占めています(雇用者5,596万人に対し、非正規雇用労働者2,120万人)。

一方で、同じ会社で同じ仕事をしているのに、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間には賃金格差や休暇の取得など福利厚生面でも待遇差があり、以前から問題として指摘されていました。非正規雇用労働者の若者は低所得で家庭も持てず、少子化の一因になっているという指摘もありました。

「同一労働同一賃金」が導入されることで、今後は雇用形態による待遇差が解消されることが期待できます。人生100年時代に、定年後に働く高齢者にとっても働きやすい環境を整えることにもつながります。

■「同一労働同一賃金」でどのような変化が?

「同一労働同一賃金」がスタートすれば、どのような変化がもたらされる可能性があるのか、考えてみましょう。

すでに見てきたように、非正規雇用労働者にとっては、賃金アップや各種手当てが支給され、福利厚生面でも正社員と変わらない待遇となります。また、「同一労働同一賃金」が浸透すれば、正規か非正規かを気にすることなく、ライフステージに合わせた柔軟な働き方がしやすくなるのは、大きな変化でしょう。

しかし、非正規雇用労働者の賃金アップ・待遇改善が狙いで始まった制度でしたが、企業も非正規雇用労働者の賃金が上がる分を吸収すべく、正社員の給与を抑える可能性があります。戦力となる非正規雇用労働者を残し、給与が高いだけで生産性の低い中高齢正社員がはじき出される可能性がないとは限りません。

先行して制度を導入した企業の中には、正社員の賃金を抑えることで賃金の水準をそろえようとするところがあったり、手当や福利厚生の縮小を決めた企業もありました(注:正社員の待遇引き下げには合理的な理由や労使の合意が必要)。年功序列の給与制度を改める会社が増え、実力主義が広がる可能性もありそうです。

■まとめ

これまで、正規・非正規の間には大きな溝がありましたが、「同一労働同一賃金」の導入により、自分自身で働き方をコントロールできるようになります。子育て期や親の介護期、老後期など、おかれている状況に合わせて働くことができて、パートであっても正社員と変わらない待遇で働けるのはいい変化といえそうです。
ただし、正社員の待遇への影響なども現れてくるかもしれませんので、今後も注目していきましょう。

参考
厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」

総務省「労働力調査」

(執筆者:豊田眞弓)

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