Vol.80
もしも自然災害に遭ってしまったときのお金の話
2020.09.11
新型コロナウイルス感染症の感染者数が日々ニュースになる一方で、「令和2年7月豪雨」など自然災害も起こっています。この豪雨災害で被災された皆様には、心よりお見舞い申し上げます。
9月1日の防災の日にちなみ、もしも「災害救助法」の適用になるような自然災害に遭ってしまったときに、私たちのお金がどうなるのか、考えてみましょう。
■「災害救助法」の適用かどうか
暴風雨や豪雨、洪水、高潮、豪雪、地震、津波、噴火など、日本は自然災害が多い国です。不幸にも自然災害の被害に遭ったとき、「災害救助法」の対象になるかどうかで受けられる措置などが変わってきます。「災害救助法」とは、災害が一定規模を超えた場合に、国の責任で救助を行う法律です。
この法律が適用されると、財務省と日本銀行は金融機関等に対し要請を行い、それによって、被災者は「金融上の措置」を受けることができます。(被災しても「災害救助法」の対象外の場合には措置を受けることはできません。)以下で具体的に見ていきますが、「災害救助法」が適用される大規模災害が起きたケースを前提にしています。
■<預金>通帳やカードがなくても引き出せる
自然災害が起きた際、小口現金は重要です。キャッシュレスが利用できないほどインフラに支障が出ても、現金があれば当面の生活に役立つ場面もあります。
「災害救助法」の対象になると、預金通帳がなくても払戻しを受けることができます。印鑑がない場合は拇印で引き出せます。また、事情によっては定期預金等の払戻しや、それを担保にした貸付を受けることも可能です。過去の例でも、金融機関が臨時出張所などを設けて、時間外や休日でも便宜を図ってくれる場合がありました。
■<保険>保険証券がなくても請求できる
保険料の払込については、契約者の被災状況に応じて猶予期間の延長を行う等の措置が図られます。保険証券や届出印鑑等を紛失していても契約内容が確認できれば保険金等の請求案内をしてもらえたり、保険金の支払いについては、できる限り迅速に行ってくれます。
なお、詳細は保険会社で異なりますが、大樹生命を例にとると、「令和元年台風第19号」の際には、次のような取扱いが行われました。
- ・保険料の払込猶予は最長6カ月間までできる。
- ・保険金・給付金・契約者貸付等の支払いは、必要書類を一部省略する等で簡易迅速に行う。
- ・契約者貸付(新規貸付)の利息免除(申込期間内)。
- ・災害救助法適用地域で今回の災害によるケガで入院した場合:診断書の取寄せができない場合は診療明細書等で代替可能。
- ・被災地の事情で入院できない場合や予定より早い退院を余儀なくされるケースでは、本来必要な入院期間について医師の証明書等を提出することで、当該期間についても入院したものとして入院給付金が支払われる。
■<証券>売却代金の即日払いにも対応⁉
証券会社にお金を置いているという場合には、「災害救助法」の対象になると、避難の際に証券会社に届けている印鑑を紛失しても、本人確認ができれば払戻しを受けることができます。
また、預かり有価証券等の売却・解約代金の即日払いも、可能な範囲で対応してもらえます。通常は4営業日であることを考えれば、かなりスピーディーな対応です。なお、有価証券を所持していて紛失した場合は、再発行の手続きもしてもらえます。
■住宅ローンはどうなる?
大規模な自然災害で被災し、住宅ローンの返済が厳しい場合には、「自然災害債務整理ガイドライン」を利用することができます。これは、2016年4月にスタートした民間の自主的ルール(※)で、被災者が金融機関との話し合いにより、ローンの減額や免除を受けることができるというものです。
※ガイドライン事業を行っているのは、一般社団法人 東日本大震災・自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関
法的な債務整理の方法には「破産手続」と「再生手続」があります。債務者に借金の支払能力がない場合は「破産手続」、将来の収入により分割返済の計画を立て、計画に従った返済をすることで残債の免除を受けるなら「再生手続」を利用します。いずれも官報に債務者の名前が記載されます。また、個人信用情報として登録され、新たな借入れをしたり、クレジットカードを作ることができなくなります。
一方、この「自然災害債務整理ガイドライン」により、債権者との合意に基づき債務整理を行うことで、デメリットを回避しつつ、裁判所の特定調停を利用して債務免除を受けることが可能です。最大のメリットは官報に債務者の名前は載らず、個人信用情報にも登録されません。そのため、その後の新たな借入れなどにも影響がありません。また、国の補助で弁護士等の「登録支援専門家」が無料で手続きを支援してくれます。さらに、預貯金など財産の一部を手元に残すことができます。
■終わりに
いつ自分ごととなるかわからない自然災害。いざというときに困らないよう、知識武装をすると共に、必要な重要書類などをまとめておきましょう。
また、保障内容の確認なども随時行い、保障内容が適切かどうかもしっかり確認しておきましょう。
参照:
(執筆者:豊田眞弓)
バックナンバー
- Vol.129 正しい給与明細書の見方
2024.10.01
- Vol.128 家計簿を付けるメリットと長続きさせる“手抜き”技
2024.9.01
- Vol.127 ルールを決めてお金の管理を!
2024.8.01
- Vol.126 家計のムダを減らす 節約のヒント
2024.7.01
- Vol.125 収入に合わせて予算を決め、予算内でやりくりする
2024.6.01
- Vol.124 人生にかかるお金はいくら?
2024.5.01
- Vol.123 もっと学びを 金融リテラシーが求められる時代
2024.4.01
- Vol.122 雇用保険に注目 リスキリングに手厚い支援
2024.03.01
- Vol.121 相続時にメリット 生命保険を賢く活用しよう
2024.02.01
- Vol.120 資産形成の第一歩
2024.01.01
- Vol.119 源泉徴収票を理解する
2023.12.01
- Vol.118 離婚することになったとき決めておくべき 3つの重要事項
2023.11.01
- Vol.117 1年未納で年に約2万円減 国民年金は満額受け取れますか?
2023.10.01
- Vol.116 会社員要注目!知っておきたい所得控除3選
2023.8.31
- Vol.115 関東大震災から100年 地震保険に加入していますか
2023.8.01
- Vol.114 進化するがん治療への備え 多様ながん保険 じっくり検討を
2023.7.01
- Vol.113 安心・安全なカーライフのために 自動車事故への備えをチェック
2023.6.01
- Vol.112 認知症への備え 成年後見制度でお金の管理を
2023.5.01
- Vol.111 2024年1月以降の贈与から使い勝手が向上 相続時精算課税
2023.4.01
- Vol.110 2024年から新制度に移行 新しいNISAで何が変わる?
2023.3.01
- Vol.109 公的制度を上手に活用 仕事と介護の両立を目指す
2023.2.01
- Vol.108 安心して赤ちゃんを産むために 出産に伴う休みとお金の話
2023.1.01
- Vol.107 気楽に書き始める エンディングノートのすすめ
2022.12.01
- Vol.106 会社勤めの冬の風物詩 年末調整って 何だろう?
2022.11.01
- Vol.105 変わる葬儀のスタイル 家族葬が増加 費用は低下傾向
2022.10.01
- Vol.104 法務局に預けて安心 自筆遺言作成のハードルが低下
2022.9.01
- Vol.103 「値上げ時代」を賢く生きる お財布に優しい省エネ・節電ライフ
2022.8.01
- Vol.102 家族の死亡時に保険契約の有無を照会できる生命保険協会の契約照会制度
2022.7.01
- Vol.101 10月から「106万円の壁」の適用範囲が拡大
2022.6.01
- Vol.100 これからの働き方・稼ぎ方を考える 「所得の分散」で実収入を増やす
2022.5.01
- Vol.99 資産を2倍にするのにかかる期間は? おおよその年数がわかる「72の法則」
2022.4.01
- Vol.98 高校の新学習指導要領始まる 家庭科の授業で投資信託を学ぶ
2022.3.01
- Vol.97 病気やけがで障がいが残ったら 程度に応じて年金・一時金が受給可能
2022.2.01
- Vol.96 支給期間が「通算1年6か月」に延長 傷病手当金の使い勝手が向上
2022.1.01
- Vol.95 年金ライフの選択の幅が広がる 受給開始を75歳まで繰り下げ可能に
2021.12.01
- Vol.94 知っておいてほしい 専業主婦(夫)の年金事情
2021.11.01
- Vol.93 ねんきんネットを活用しよう!
2021.10.01
- Vol.92 公的年金制度の仕組み
2021.09.01
- Vol.91 「ふるさと納税」のメリットは?
2021.08.01
- Vol.90 上手に貯めて使いたいマイル
2021.07.01
- Vol.89 新型コロナ禍の家計防衛術
2021.06.01
- Vol.88 投資商品選びのアドバイス
2021.05.01
- Vol.87 つみたてNISAやiDeCoにも採用されている定額購入法の長所と短所
2021.04.01
- Vol.86 2021年4月から「70歳雇用」が企業の努力義務に。何がどう変わる?
2021.03.01
- Vol.85 年末調整で手続きを忘れても確定申告でできる!生命保険料控除はしっかり活用を
2021.2.01
- Vol.84 コロナ禍でリフォームをする際も「減税」を活用しよう!
2021.01.01
- Vol.83 ボーナスが減ってもやっていける強い家計の作り方
2020.12.11
- Vol.82 高額介護サービス費制度が2020年8月から一部変更に。どのような影響がある?
2020.11.01
- Vol.81 2020年10月から酒税変更でビールが減税に!その他の発泡酒やワインは増税!?
2020.10.01
- Vol.80 もしも自然災害に遭ってしまったときのお金の話
2020.09.11
- Vol.79 年金改正法成立と、私たちの生活への影響
2020.08.01
- Vol.78 会社員が副業を始める前に注意しておきたいポイントをご紹介
2020.07.01
- Vol.77 マイナンバーカードによる消費活性化策、マイナポイントがスタート!
2020.06.01
- Vol.76 生涯現役に向けて資格を取ろう!雇用保険の「教育訓練給付制度」
2020.05.01
- Vol.75 2020年4月から「同一労働同一賃金」がスタート。何が変わる?
2020.04.01
- Vol.74 「家計の金融行動に関する世論調査」でわかる年代別平均貯蓄額は?
2020.03.01
- Vol.73 生命保険の付帯サービスって意外に役立つ!
2020.02.01
- Vol.72 知っトク家族信託!上手に活用しよう
2020.01.01
- Vol.71 保険金や給付金の請求漏れを防ぐには?
2019.12.01
- Vol.70 消費増税で高齢者に関する介護・年金にどんな変化が?
2019.11.01
- Vol.69 60代でもキャッシュレス決済に挑戦!税金のポイントをゲットしよう
2019.10.01
- Vol.68 「あげすぎ」にご用心!生前贈与を整理しておこう
2019.09.01
- Vol.67 持病も増える50代以降。医療費を節約する7つの方法
2019.08.01
- Vol.66 海外滞在中の病気やケガ、死亡でも生命保険は備えられる?
2019.07.01
- Vol.65 おひとり様が不安なく楽しい老後を過ごすには?
2019.06.01
- Vol.64 これからの時代とっても大事。金融リテラシーを身に付けよう!
2019.05.01
- Vol.63 住宅ローン控除の拡大などで住宅取得はいつが有利に?
2019.04.01
- Vol.62 3~5歳児の幼児教育・保育の無償化で教育資金の貯め方は変わる?
2019.03.01
- Vol.61 知っトク!相続に関わる民法改正のポイント
2019.02.01
- Vol.60 2019年、消費増税でどうなる?どうする?わが家の家計
2019.01.10
- Vol.59 まだ間に合う!年末までにやっておきたい家計のツボ
2018.12.01
- Vol.58 高齢期の働き方はココに注意!
2018.11.01
- Vol.57 「ハイパーインフレ」ってどんなもの?備えるには?
2018.10.10
- Vol.56 保険はどんなときに見直しますか?
2018.09.01
- Vol.55 人生100年時代。老後資金への備えは複合的に!
2018.08.01
- Vol.54 介護保険、2018年8月から高所得者が3割負担に!
2018.07.01
- Vol.53 医療費はどのくらいかかる?(2)
2018.06.01
- Vol.52 医療費はどのくらいかかる?(1)
2018.05.01
- Vol.51 40~50代は「責任世代」。将来も見据えてどんな病気・ケガに備えるべき?
2018.04.01
- Vol.50 人生100年時代。資産形成の1つの方法として「つみたてNISA」を始めませんか?
2018.03.01
- Vol.49 配偶者控除・配偶者特別控除が改正に。妻の働き方はどうなる?
2018.02.01
- Vol.48 実はトラブルも多い!?成年後見制度を活用するポイントは?
2018.01.01
- Vol.47 ふるさと納税で応援したい自治体をサポートしてお礼をゲット
2017.12.01
- Vol.46 大学時代の教育資金をサポートする制度
2017.11.01
- Vol.45 雇用保険の教育訓練給付制度で退職後の武器をつくろう!
2017.10.01
- Vol.44 知っておくと安心!?契約者貸付制度のしくみ
2017.09.01
- Vol.43 個人型確定拠出年金「iDeCo」は本当におトクなの?
2017.08.01
- Vol.42 「高齢者」の定義が65歳⇒75歳になるとどうなる?
2017.07.01
- Vol.41 日本人の平均貯蓄額は1,600万円ってホント?
2017.06.01
- Vol.40 増える医療の自己負担。今度は高齢者の「高額療養費制度」が変更に!
2017.05.01
- Vol.39 年金制度改革でもらえる年金がさらに目減りする!?
2017.04.01
- Vol.38 セルフメディケーション税制でちょっとお得に健康管理
2017.03.01
- Vol.37 確定申告でもマイナンバーが必要に!
2017.02.01
- Vol.36 ご存知ですか?介護費の一部も医療費控除の対象です
2017.01.01
- Vol.35 70代になったら考えてもらおう!親の終活
2016.12.01
- Vol.34 40代から考えよう!自分のセカンドライフと終活
2016.11.01
- Vol.33 外貨建て資産との上手な付き合い方
2016.10.01
- Vol.32 マイナス金利時代の老後資金準備はどうなる?
2016.09.01
- Vol.31 自分の年代の病気やケガのリスクを知っていますか?
2016.08.01
- Vol.30 4月からスタートした「患者申出療養」について知ろう!
2016.07.01
- Vol.29 40代、50代は家計の曲がり角!? 子育てにめどがついたら生命保険の見直しを!
2016.06.01
- Vol.28 40代、50代は家計の曲がり角!? 老後資金準備のために、住宅ローンは55歳完済を目指せ!
2016.05.01
- Vol.27 40代、50代は家計の曲がり角!? アラフィフ家計の漬物石!? 教育費負担を見直す
2016.04.01
- Vol.26 40代、50代は家計の曲がり角!? 老後破綻を回避する、今からできる7つの方法
2016.03.01
- Vol.25 40代、50代は家計の曲がり角!?あなたのセカンドライフ「夫婦で3,000万円」で足りますか?
2016.02.01
- Vol.24 40代、50代は家計の曲がり角!?はまっていませんか?アラフィフ世代の家計のワナ
2016.01.01