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健康コラム

Vol.35

ナースに学ぶタッチング

2017.05.01

看護学生として最初に受けた講義の内容は数十年経った今でもはっきりと覚えています。
「『看護』の『看』という漢字は『手』と『目』で成り立っている。患者さんを手と目を使って看るように」といった講義内容でした。
今回は、5月12日の看護の日を記念し、手で看る看護「タッチング」をご紹介します。日常の健康管理にも活かしてください。

■タッチングって何?

看護学学習辞典(第3版・学研・2008年)によると、タッチングとは、「非言語的コミュニケーションの1つとして手や指で撫でる、さするなど肌と肌との触れ合いを通じた相互作用性のある行為であり、心の触れ合い、情緒的安定をもたらす。また、情緒的安定のほかに痛みの緩和など治療的・技術的ケアにも用いられ、とくに、言葉だけで理解できない子どもや緊張や不安、身体的苦痛を伴う状況のときなどに有効なケアの手段」と説明されています。

■皮膚と脳は同じ出身地?!

小さい頃、頭を撫でられて嬉しかった記憶はありませんか?
悲しみに暮れているとき、そっと背中をさすってもらって気持ちが落ち着いたという経験はありませんか?
皮膚に触れるという簡単なことが、心に影響を与える理由を説明する材料として、皮膚と脳の発生の過程が参考になります。
皮膚感覚のスペシャリストである山口創先生(桜美林大学の身体心理学教授)によると、「受精卵が卵割を繰り返して、胞胚期といわれる時期があるが、このとき細胞は3層の構造に分かれている。(中略)皮膚と脳は同じ外胚葉に由来する」。
よって、皮膚は脳に匹敵するくらいの情報処理機能を備えているというのです。
そして、あらゆる部位の皮膚の中で、最も優れた機能を持っているのが手なのです(参考:2012年「手の治癒力」草思社)。

では、ここからは、その手を活かした看護技術としてのタッチングについて見ていきます。

■看護の現場における様々なタッチング

1.患者さんの情報収集のためのタッチング

病棟ナースは、毎日定期的に行うバイタルサインチェックの時間に患者さんに触れます。バイタルサインとは、脈拍、呼吸、血圧、体温といった患者さんの命に関する基本的情報のこと。
体温計を脇の下にはさんだら、3本を患者さんの橈骨動脈(手首の内側にある動脈)にそっとあてます。腹部に手を当て、ガスや便の溜まり具合をチェックしたりもします。高度なデジタル医療機器が発達した現在でも、手で看ることは重要視されています。それは、前述した、皮膚の情報処理機能が非常に優れていることの表れです。

2.患者さんの身体や心の不調を解消するためのタッチング

  • ①マッサージする(揉む・さする等)
  • マッサージもタッチングのひとつ。
    看護の現場で、よく行われるのが便秘を解消するための腹部マッサージです。
    便秘の原因としては、治療(手術や薬)の影響のほかに、入院生活に伴うストレスや活動量の低下が挙げられます。マッサージの方法としては、腹部全体を時計回りにゆっくりと優しくさすります(いわゆる「の」の字マッサージ)。
    すると、血行が良くなり、腸蠕動(腸の収縮運動)も活発になります。
    便秘解消にとどまらず、リラックス効果も期待できます。

  • ②タッピング
  • 看護の現場でよく用いるのは、痰を出しやするためのタッピングです。
    手をお椀のような形にして、痰が絡んでいると思われる部位(胸や背中)を軽くリズミカルにポンポンポンと叩きます。
    その振動によって痰を剥がれやすくしたり、肺炎を予防したりします。痰が絡んで辛い患者さんに寄り添う気持ちを手に込めてケアします。

  • ③さする
  • 子どもが転んで膝を打ったら、とっさに膝をさすりませんか?
    最近、この「痛いの痛いの飛んでいけー」に、科学的根拠があるということが判りました。群馬大学大学院の柴崎貢志准教授らが、「さすると痛みが和らぐ仕組み」を解明したのです。
    詳細な研究内容については、「さする」となぜ神経の突起が伸びるのかという分子機構―細胞伸展の感知センサー動作原理を発見―を参照してください。

さすると痛みが和らぐメカニズムについて

■タッチングで気をつけること

こんな素晴らしい効果があるのなら、日常生活にすぐ取り入れたいですね。
今すぐ実践できるタッチングですが、ちょっとした準備が必要になります。

まず、信頼関係の問題。ハグを日常的にする欧米人と比べ、日本人は、触れたり触れられたりすることに消極的です。触れられることが苦手な人にタッチングすることは逆効果になりかねません。まずは信頼関係作りから。
次に、温度の問題。タッチングする手は温めておかなければなりません。
冷たい手で触れられると逆にストレスになります。ナースは患者さんの身体に触れるときに前もって手を温めています。患者さんを驚かせたり、不快にさせたりしたくないという理由もありますが、安心して欲しいとか、元気になって欲しいという気持ちを込めて温めています。先ほどご紹介した山口創教授曰く、大脳の「島皮質」という部分は、身体的な温かさと心の温かさの両方に関与しており、身体的な温かさを感じると、心も温かくなるらしいのです。

このように、お金を1円もかけずに、いつでもどこでも心や身体を癒すことができるというタッチング。
家に小さい子どもがいれば自然とタッチングをしているでしょうが、小さい子ども相手でなくとも、相手の性格や状況に応じて、日常にタッチングを取り入れることができれば、心と身体の健康に役立てることができるかもしれません。

お互いの健康と幸せのために、まずは握手からはじめてみませんか?

ファイナンシャルプランナー 萩原 有紀

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