Vol.38
献血で健康管理
2017.08.01
8月21日は献血の日。1964年(昭和39年)のこの日、「輸血用血液を献血により確保する体制を確立する」という閣議決定がなされ、今日の献血制度が整いました。
健康な人が病気の人の役に立てるだけでなく、健康な人が健康を維持できるおまけまで付いてくる献血のことをもっと知っていただこうと、献血の日にちなんでまとめました。
■献血前の健康について
1)献血の歴史
そもそも、輸血用血液が献血によってまかなわれるようになったのは、輸血の安全性を守るためです。
その昔、民間の事業者が、血液提供者にお金を払って血液を買い集め、病院に売って利潤を得ていました。しかし、生活のために自分の血液を売らざるを得ない人もあらわれ、健康が悪化した売血者の血液から作る製剤の品質が社会問題となりました。
献血者は健康でなければならないという大前提に加え、倫理的にも人の血液を売買すべきではないということを訴える運動が盛んになり、冒頭の閣議決定に至ったのです。
現在、日本の血液事業は、国や地方公共団体と連携しながら、日本赤十字社が行うことになっています。
2)献血できないケースとは?
献血者は健康でなければならないという前提をお伝えしましたが、自分は健康だと思って献血しようとしたけど献血できなかった経験をお持ちの方もいるのでは?
まず、日本赤十字社ホームページの「献血をご遠慮いただく場合」を見ると、献血できない例として下表の13項目が挙げられています。
これらは、献血前に記入する問診票でも問われ、献血後は血液の精密検査もなされます。
また、この問診票の内容と合わせて、血圧と血液比重もチェックされます。
最高血圧が90mmHgより低いと献血できません。高すぎる場合もドクターストップがかかるでしょう。
また、血液比重が基準値以下の方も献血できません。
血液比重というのは、血液の濃さを表す数値のことで、水の重さを1とした場合の血液の重さをいいます。日本人の血液比重の標準範囲は、男性では1.052~1.060、女性では1.049~1.056となっています(東京都赤十字血液センターホームページ参照)。
血圧や血液比重は食生活をはじめとする生活習慣に影響されることがあります。ドクターストップがかかった方は、これを機に生活習慣を見直してみるとよいでしょう。
■献血中?献血後の健康について
1)献血中は足の運動でトラブルを防ぐ
無事にチェックをくぐり抜け、いよいよ献血へ!
献血場所は、全国各地に常設されている献血ルームのほか、移動する献血バスがあります。
採血時間は、血液中のすべての成分を献血する「全血献血」(200mlと400ml)だと10~15分程度かかり、血小板や血漿といった特定の成分だけ採血し、回復に時間がかかる赤血球は再び体内に戻す「成分献血」だと40~90分程度かかります。
この採血の最中から採血後にかけて、気分不良やめまいなどを起こす人が100人に1人程度いるとされています(東京都赤十字血液センター調べ)。考えられるのはVVR(血管迷走神経反応)という針刺し時の副作用。不安や緊張、睡眠不足、疲労などが誘因となって自律神経のバランスが崩れ、迷走神経(抹消血管を拡張して血圧や脈拍を下げる神経)が刺激され、脳血流が減るために気分不良やめまいを引き起こすのです。
睡眠や食事が規則正しく確保できていて、心身ともに元気なときに献血へ行きましょう。
さらに万全を期すために、日本赤十字社が献血者に協力を呼びかけているのが献血中のレッグクロス運動。これは、「足を交差した状態で採血ベッドの上で、足の筋肉に力を入れることと緩めることを繰り返し行う運動」のこと。「第二の心臓」とも呼ばれている足の筋肉を動かすことで血流が良くなり、献血に伴う副作用を予防することが期待できます。レッグクロス運動についての詳細は、日本赤十字社のホームページをご覧ください。
2)献血すると飲み物が飲み放題?!
献血を無事終えたら、当日のうちに、抜いた血液量の3倍量を目安に水分摂取しましょう。献血ルームや献血バスに飲み物がたくさん用意されているのは、単なるサービスではなく医学的な根拠がきちんとあるのです。
血液量は体重のおよそ7%で、その血液量の12%を献血しても医学的に問題がないといわれています。たとえば、体重50kgの人であれば、420mlまでの献血は問題ないことになります。
献血後の血液の「量」は、水分を摂取することにより短時間で回復します。
一方、血液の「成分」が回復する速さは、その成分によって異なります。個人差はありますが、血漿成分は約2日、血小板成分は約4~5日、赤血球は約2~3週間で回復します(日本赤十字社ホームページ参照)。
3)血液検査結果通知サービスとは?
献血によって、輸血が必要な患者さんの健康が守られるためには、献血者が健康を保たなくてはなりません。継続的な健康チェックの意味と、そして、善意かつ無償のボランティアである献血者への感謝のしるしとして、日本赤十字社は希望者に対して7項目の生化学検査結果および8項目の血球計数検査結果を送付してくれます(下記図表参照)。
いかがでしたか? 現在の科学技術では、血液の役割を代用するものはなく、献血が輸血医療を支えています。平成27年の東京都輸血状況調査集計結果を見ると、輸血用血液製剤の多くは、がん(悪性新生物)の患者さんの治療に使用されていることがわかります。 健康だから献血ができ、献血によって健康を維持することができ、さらに、自分の健康によって誰かが健康になれる! そんな好循環を作られたらいいですね。
バックナンバー
- Vol.126 男性の罹患数1位の前立腺がん
2024.12.05
- Vol.125 週2〜3日の筋トレで健康増進
2024.10.31
- Vol.124 身体活動・運動ガイド 国が10年ぶりに内容刷新
2024.10.01
- Vol.123 最新の知見を盛り込んだ日常活動の指針
2024.09.01
- Vol.122 自分に合った飲酒量の見極めを
2024.08.01
- Vol.121 明らかになってきた飲酒量と病気の相関
2024.07.01
- Vol.120 国が初のガイドライン作成「健康に配慮した飲酒」とは
2024.06.01
- Vol.119 肥満症の治療や予防の新薬が登場
2024.05.01
- Vol.118 減量は食事・運動・体重「見える化」で
2024.04.01
- Vol.117 「肥満」の判定基準と「肥満症」の診断基準
2024.03.01
- Vol.116 アレルギー性鼻炎の治療法
2024.02.01
- Vol.115 慢性化すると危険な副鼻腔炎
2024.01.01
- Vol.114 生活の工夫でアレルギー性鼻炎を予防
2023.12.01
- Vol.113 外来・入院治療でかかるお金の話
2023.11.01
- Vol.112 限度額超過分を還付する高額療養費制度
2023.10.01
- Vol.111 丸わかり日本の医療制度と医療費の仕組み
2023.8.31
- Vol.110 認知症リスクを高める加齢性難聴
2023.8.01
- Vol.109 イヤホンやヘッドホンの利用に注意
2023.7.01
- Vol.108 耳鳴りやうつの原因にもなる難聴
2023.6.01
- Vol.107 食事と運動が高血糖改善の2本柱
2023.5.01
- Vol.106 食後に血糖値急上昇の血糖値スパイクに注意
2023.4.01
- Vol.105 生活習慣の見直しで高血糖を予防する
2023.3.01
- Vol.104 体内時計のリズムが狂う睡眠・覚醒障害
2023.2.01
- Vol.103 生活の質を低下させる睡眠中の異常行動
2023.1.01
- Vol.102 睡眠休養感と睡眠時間・床上時間の関係
2022.12.01
- Vol.101 帯状疱疹 50歳以上の人はワクチン接種の検討を
2022.11.01
- Vol.100 帯状疱疹 早期の治療開始で痛み緩和と後遺症予防
2022.10.01
- Vol.99 新型コロナ禍で増加中?帯状疱疹に要注意
2022.9.01
- Vol.98 五十肩との見極めが大切な腱板断裂
2022.8.01
- Vol.97 痛みが長期化することもある五十肩
2022.7.01
- Vol.96 1000万人以上が悩む肩こり・痛みを解消する
2022.6.01
- Vol.95 不整脈との付き合い方 種類や症状によって異なる治療法
2022.5.01
- Vol.94 不整脈との付き合い方 突然死につながる危険な「心室細動」
2022.4.01
- Vol.93 多種多様な不整脈 正しく知って適切に対処 心臓の拍動に異常が生じる病気の総称
2022.3.01
- Vol.92 40歳以上の人は必ず年1回の検診を受診しよう 命を守る大腸がん検診のすすめ
2022.2.01
- Vol.91 治療の幅を広げるロボット手術や分子標的薬
2022.1.01
- Vol.90 早期発見・早期治療でストップ!大腸がん
2021.12.01
- Vol.89 カビや羽毛が原因となる過敏性肺炎
2021.11.01
- Vol.88 体内にある細菌が引き起こす誤嚥性肺炎
2021.10.01
- Vol.87 身近にある肺炎の危険に注意
2021.09.01
- Vol.86 多量飲酒や生活習慣病が誘因となる脂肪肝
2021.08.01
- Vol.85 肝硬変や肝がんに進行することもある慢性肝炎
2021.07.01
- Vol.84 早期発見のカギは定期健康診断
2021.06.01
- Vol.83 「笑い」のパワーでNK細胞を活性化
2021.05.01
- Vol.82 免疫力を上げる生活習慣
2021.04.01
- Vol.81 砂糖との健康的な付き合い方
2021.03.01
- Vol.80 足を守る予防ケア
2021.02.01
- Vol.79 その症状、冬季うつかも
2021.01.01
- Vol.78 日本の年中行事と健康
2020.12.01
- Vol.77 冬支度をしよう
2020.11.01
- Vol.76 ニューノーマル時代に健康でいられる家
2020.10.01
- Vol.75 今こそ知りたいオンライン診療
2020.09.11
- Vol.74 夏野菜パワーで暑い夏を元気に過ごそう!
2020.08.01
- Vol.73 雨シーズンの不調はおうちケアで予防
2020.07.01
- Vol.72 テレワークと健康
2020.06.01
- Vol.71 メタボリックシンドローム予備群からの脱出
2020.05.01
- Vol.70 健康な人の時間管理
2020.04.01
- Vol.69 健康を心がけた外食とは
2020.03.01
- Vol.68 ボランティア活動をすると健康になれる?!
2020.02.01
- Vol.67 勉強すれば健康寿命が延びるって本当?!
2020.01.01
- Vol.66 体調を崩しやすい季節に試してほしい部分浴
2019.12.01
- Vol.65 趣味と健康の関係性
2019.11.01
- Vol.64 住み替えと健康
2019.10.01
- Vol.63 モノを減らすと健康になれる?!
2019.09.01
- Vol.62 夏のめまいを予防する3つの『す』
2019.08.01
- Vol.61 コミュニティナース
2019.07.01
- Vol.60 セカンドオピニオンのイロハ
2019.06.01
- Vol.59 ヘルスリテラシーを高めて健康寿命を延ばす
2019.05.01
- Vol.58 ゲームと健康
2019.04.01
- Vol.57 かかりつけ医の探し方
2019.03.01
- Vol.56 ラムネのお菓子で健康になれる?!
2019.02.01
- Vol.55 寒さに負けない筋肉のつくり方
2019.01.10
- Vol.54 代謝が上がると運気も上がる
2018.12.01
- Vol.53 社長が長生きする理由
2018.11.01
- Vol.52 本当の老後の備えとは
2018.10.10
- Vol.51 頭皮の健康習慣を考えてみませんか
2018.09.01
- Vol.50 経済的で健康的な天然のエアコンで夏を快適に
2018.08.01
- Vol.49 ラジオ体操の健康効果がすごい!
2018.07.01
- Vol.48 健康管理に役立つAI
2018.06.01
- Vol.47 タバコをやめて、お金持ち、健康持ちに
2018.05.01
- Vol.46 満員電車と働く人の健康
2018.04.01
- Vol.45 保健センターの活用法
2018.03.01
- Vol.44 健康のためにいくら使っていますか?
2018.02.01
- Vol.43 風邪を正しく理解しよう
2018.01.01
- Vol.42 暖房器具で健康を守る!
2017.12.01
- Vol.41 音楽を聴くだけでカラダにいいことがある?!
2017.11.01
- Vol.40 スポーツを観るだけで健康になれる?!
2017.10.01
- Vol.39 救急の日に考える救急車のお作法
2017.09.01
- Vol.38 献血で健康管理
2017.08.01
- Vol.37 夏の食中毒から身を守る方法
2017.07.01
- Vol.36 日記を書くだけで健康になれる?!
2017.06.01
- Vol.35 ナースに学ぶタッチング
2017.05.01
- Vol.34 ガッツポーズで元気になろう
2017.04.01
- Vol.33 花粉症と上手に付き合って春を楽しもう
2017.03.01
- Vol.32 インフルエンザ予防のカギは○○の湿度
2017.02.01
- Vol.31 お正月は胃腸と家計のリセットを!
2017.01.01
- Vol.30 お金持ちは姿勢が良い?!
2016.12.01
- Vol.29 ライフプランでお金と健康と生きがいをプランニング
2016.11.01
- Vol.28 健康とお金を守る働き方
2016.10.01
- Vol.27 三世代同居で金持ち元気持ち?!
2016.09.01
- Vol.26 健康のための旅行とその備え
2016.08.01
- Vol.25 休み上手になって稼ぎ力アップ!
2016.07.01
- Vol.24 心身とお家計に効く和食
2016.06.01
- Vol.23 貧乏ゆすりは金持ちゆすり?!
2016.05.01
- Vol.22 離れて暮らす親の健康とお金を守る
2016.04.01