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健康コラム

Vol.41

音楽を聴くだけでカラダにいいことがある?!

2017.11.01

音楽の持つ力を心身の健康のために利用することは、古代エジプトの時代から行われてきました。
私たち現代人も、音楽によって勇気づけられたり、癒されたりした経験があるのではないでしょうか?
今回は「芸術の秋」ということで、音楽が心身に影響を与えるメカニズムを探っていきたいと思います。

■音楽の向(こう)ホメオスタシス効果

元気になりたいときに聴く音楽や、落ち着きたいときに聴く音楽。みなさんは自分用の「音楽の薬」を持っていますか?
音楽を聴くだけで、心臓のドキドキが高まったり、逆に鎮まったりするのは、音楽がバイタルサイン(脈拍、呼吸、血圧、体温といった人の命に関する基本的情報)に何らかの影響を与えているということでしょうか?

医学博士の永田勝太郎医師の「音楽療法の生理学的研究と心身医学における応用」(『音楽療法研究-第一線からの報告-』音楽之友社、1996)に興味深い研究結果が掲載されていたのでご紹介します。
73人の被験者に、彼らの好きな音楽を、好きな音質で、好きなボリュームで聴かせたところ、収縮期血圧(最高血圧ともいう)が高い人たちのグループ(収縮期血圧が140mmHg以上の人)は、音楽聴取後、収縮期血圧が下降し、収縮期血圧が低いグループの人たち(収縮期血圧が120mmHg以下の人)は収縮期血圧が上昇するという結果が得られたそうです。これは、生体の向ホメオスタシス効果(生体を最も望ましい状況に導く効果)であると結論づけられています。
そして、向ホメオスタシス効果の理由は、呼吸にあるとされています。被験者の好みの音楽で実験した場合に限り、音楽のリズムと被験者の呼吸が同調していたというのです。
私たちは心臓の動きをコントロールすることはできませんが、呼吸はコントロールできます。不安や緊張などで呼吸が早くなっているときなど、ゆったり呼吸をして、自律神経系に働きかけて心臓を落ち着かせるということが可能なのです。
また、血圧の高い人は比較的スローテンポの曲を選択しがちであるという結果からも、人は、「無意識のうちに自らの生体が必要としている呼吸に導くような曲を選択している」と永田医師は言っています。

■音楽の鎮痛効果

次に、音楽の持つ鎮痛効果について見ていきましょう。
私は、人生最大の痛みを音楽に軽くしてもらった経験があります。それは、出産のときのこと。好きな音楽を流してもらった途端、陣痛が軽くなったのです。
最近の陣痛室や分娩室は、「好みのCDの持込み可」というところが多いようですが、手術室も例外ではありません。医師や看護師の好みで選曲されることもあれば、事前に患者の好みに合わせることもあります。

ブルネル大学(Brunel University)のキャサリン・ミーズ(Catherine Meads)博士らにより、イギリスの医学誌Lancet(2015年発行)に発表された研究論文「Music as an aid for postoperative recovery in adults: a systematic review and meta-analysis」は、音楽の鎮痛効果を証明しています。
研究の結果、手術の前後や手術中に音楽を聴くことで、標準的な手術後に感じる痛みが軽減したことが判ったのです。
音楽の種類や、本人が選曲するかどうかに関連性はなく、手術前、手術中、手術後のどのタイミングで音楽を聴いても効果があるものの、特に、手術前に音楽を聴いたときに最も痛みが軽減したという結果でした。
また、音楽の鎮痛効果は、部分麻酔で意識がある場合はより効果が大きかったものの、全身麻酔をかけられた場合でも手術後の痛みが軽減することが分かりました。
好みの音楽でなかったとしても、また、意識がなかったとしても、効果が認められた音楽の持つ力のポテンシャルは大きく、これからの日本の医療に貢献してくれそうです。

■日本のこれからの医療における音楽の位置付け

日本では、1980年代から「音楽療法」の研究が精力的に行われ、2001年からは日本音楽療法学会認定の「音楽療法士」が施設や病院などで活躍しています。
厚生労働省も、音楽療法を「相補・代替療法」のひとつとして位置付けています。

参考:平成25年「『統合医療』のあり方に関する検討会」の資料

いかがでしたか?
音楽は、心身をあるべき状態に整えてくれたり、痛みを軽減してくれたりします。
このことは、病気の予防や、副作用のある鎮痛剤への依存からの脱却につながり、個人レベルでも国家レベルでも大きなプラスとなるでしょう。
みなさんも、自分や家族の健康のために、「音楽の薬」を常備してみてはいかがですか?

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