Vol.46
満員電車と働く人の健康
2018.04.01
いよいよ4月。この春から通勤電車デビューする新社会人もいることでしょう。そんな晴れやかさとは裏腹に、おろしたてのスーツがもみくちゃになる満員電車への不安も……
職場におけるメンタルヘルス(心の健康)対策が重要視されるようになった昨今、働く人の通勤事情も見過ごすことができない問題です。
今回は、満員電車が働く人の健康に及ぼす影響を考えます。
1.電車の混雑率の目安は?
国土交通省の旅客数量月別推移(平成28年度)によると、定期利用客数(通勤・通学を目的に定期利用する乗客の数)が最も多い月は5月(1,255,784千人)、次に多い月は6月(1,234,287千人)でした。一方、最も少ない月は2月(1,087,619千人)、次に少ない月は3月(1,106,430千人)、そして、4月(1.184.864千人)は8番目に多いという結果に。
ただ、学生の春休みなどで利用客が減る2月と3月の後に続く4月は、感覚的に電車内の混雑率がアップしたと感じてしまいます。
電車の混雑率は、「輸送人員÷輸送力」で算出されますが、私たちが簡単に混雑率を測る目安がありますのでご紹介します。
理論上は定員乗車(混雑率100%)を超えると満員電車ということになります。
では、実際の電車の混雑率はどのくらいなのでしょうか?
同じく国土交通省公表の混雑率データ(平成28年度)を見ると、全国各路線の混雑率が公表されています。
最も混雑している路線は、東京メトロ東西線[木場→門前仲町](時間帯は7:50〜8:50)で、混雑率は実に199%! 2番目がJR東日本総武線(緩行)[錦糸町→両国](時間帯は7:34〜8:34)で混雑率198%。3番目が小田急小田原線[世田谷代田→下北沢](時間帯は7:46〜8:48)で混雑率192%という結果に。
ちなみに、筆者が住む関西エリアで最も混雑している地下鉄御堂筋線[梅田→淀屋橋]の混雑率は147%でした。
2.通勤疲れの原因はパーソナル・スペースにある?
座席に座れず、立ったまま吊革につかまることすらできず、必死にバランスを保ちながらの通勤となると、もちろん肉体的負担は大きいでしょう。
しかし、定員乗車レベルで席に座れたとしても、たとえば7人掛けのシートで両側を知らない人に挟まれて座るとなると、個人差はあるものの心理的負担がかかります。
その原因は「パーソナル・スペース」にあるのかもしれません。
パーソナル・スペースとは、環境心理学の創始者といわれるロバート・ソマーによって定義づけされ、文化人類学者エドワード・ホールによって分類された「人間の身体のまわりを取り巻く他人を入れさせたくない見えない泡のような領域」(参考図書:ロバート・ソマー著、穐山貞登訳『人間の空間-デザインの行動的研究』鹿島出版会、1972年)のこと。
では、パーソナル・スペースとは、具体的にどのくらいの距離なのでしょうか?
たとえ定員乗車レベルとしても、「体がふれあい相当圧迫感がある」距離となる場合があり、パーソナル・スペースの分類に従うと、「恋人など親密な人との距離」とされる密接距離に該当します。
親密でない他者がこのスペースに侵入してくる電車通勤は、かなりの心理的負担となるはずです。都心部など混雑率が200%近くにも達する満員電車内の負担は相当なものと推察されます。
3.満員電車に乗らない働き方
満員電車によるストレスが大きいことがわかったところで、満員電車に乗らない働き方について考えてみます。
(1)「時差出勤制」や「フレックスタイム制」を利用する。
先に見た混雑率のデータにも示されている通り、混雑する時間帯というのが7時台〜8時台。この通勤ラッシュの時間帯を避けるという方法です。
時差出勤制とフレックスタイム制は、いずれも、働く人が各自の出勤・退社時間を原則として自由に決められる制度ですが、制度を導入していない会社もあります。
総労働時間が決められているフレックス制に対し、時差出勤制では1日の実働時間が決められています。
(2)自転車通勤をする
自宅からの距離や駐輪場の有無、会社の通勤規定など、自転車通勤が可能かどうかの問題がクリアされていれば、おすすめの方法です。これからの時期、自転車で桜の下を走るのも気持ちが良さそうです。満員電車を避けられるだけでなく、健康にも良い自転車通勤。くれぐれも安全運転で。
(3)テレワークをする
テレワークとは、ICT (情報通信技術)を活用した、場所や時間にとらわれない「柔軟な働き方」のこと。出勤が不要な在宅勤務も含まれます。
国の働き方改革においても、テレワークを含む「柔軟な働き方」が議論のテーマとなっています。
4.満員電車での過ごし方
満員電車に乗らない働き方について見てきましたが、それでも満員電車に乗らなければならない人のために、最後は、満員電車での過ごし方について考えます。
通勤時間に平均時給をかけて算出される、通勤による機会費用(通勤コスト)は社会的損失であるという見方があります。
この点、「失う」時間と考えるのではなく、「得られる」時間と考え、満員電車に揺られている時間をスキルアップのために使えば、将来の収入アップに繋がるかもしれません。たとえ座れなくても、本を広げられなくても、今はスマホで耳から学習することも可能です。家ではなかなか勉強を続けることができない人でも、通勤時間なら続くこともあります。往復2時間、月に20日通勤するとして、毎月合計40時間! 勉強に意識を集中させることで、電車内でのストレスフルな状況から意識をそらす効果も期待できます。
このスキルアップタイムによって、ゆくゆくは起業したり、送迎付きの重役になったりなど、満員電車とサヨナラする日がくるかもしれませんね。
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