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健康コラム

Vol.53

社長が長生きする理由

2018.11.01

「人生100年時代」の働き方が注目されています。定年制については、延長や廃止の可能性が示され、定年間近の人たちが「まだ働かされるのか」とため息混じりにいいます。ストレスをためながら働き続けるのは精神衛生上良くないのはもちろんのこと、過労死のリスクも高まります。
そこで、長く健康的に働き続けられる職業とはどんなものなのかについて、いくつかの研究結果を交えながら考えていきたいと思います。

長生きする職業は僧侶と社長?!

古いながら興味深い研究結果があります。郡山女子大学の森一教授(研究当時は福島県立医科大学教授)らの「職業と寿命の研究」の中で、「1980〜82年における10種の職業集団の平均死亡年齢と死因に関する調査」(民族衛生51巻144-145頁)によると、長生きする職業ランキングは以下のようになりました。

長生きする職業ランキング

当時の社会的背景(男性社会)や職業の抽出方法に偏りがあるため、現代にそのまま当てはめるわけにはいきませんが、どのような働き方、ひいては生き方をすれば長生きするのかを考える材料になります。

1位の宗教家(僧侶)というのは、古くから長寿の職業として知られています。粗食や規則正しい生活を通して体を整え、瞑想や読経などを通して心を整えていることなどが、長生きの理由として挙げられるでしょう。

そして、今回注目したいのは、2位の実業家(社長)が長生きする理由。
社長というと、責任が大きく、それに伴ってストレスも大きくなり、むしろ健康に悪影響を及ぼす環境に置かれているようにも思われますが、実は、その環境が健康に良い影響を及ぼしているかもしれないというのです。

裁量度が高い人は長生きする〜イギリスの研究から〜

まず、ロンドン大学の疫学および公衆衛生学のマイケル・マーモット教授らによる、ホワイトホール研究をご紹介します。

ホワイトホールとは、ロンドンの官庁街のことで、いわば日本の霞ヶ関のようなところ。
ホワイトホール研究とは、1967年から数十年にわたり、ホワイトホールで働く約28,000人の公務員を対象に、ストレスが健康に及ぼす影響を追跡した研究です。
その結果、40〜64歳の年齢層では、階層の最下層にいる公務員は、トップ層にいる公務員と比べて死亡率が4倍にもなりました。

この研究だけで、社長が長生きするという根拠にはなりませんが、受動的な仕事によるストレスの方が、能動的な仕事によるストレスより、健康に与える影響が大きいことが想像されます。

この点、産業ストレスを研究するロバート・カラセックが提唱した、「仕事要求度・コントロールモデル」が参考になります。
下図のように、要求度(仕事量や困難度)と裁量度(コントロール)の2つの評価軸によって仕事を4分類すると、「要求度が高く、裁量度が低い」仕事ほどストレスが大きい仕事ということになります。ストレスが大きいと、脳卒中などの重大な疾病を引き起こすリスクが高まります。
一方、社長のように「要求度が高く、裁量度も高い」仕事ほどモチベーションが大きくなります。

仕事要求度・コントロールモデル(カラセックの理論をもとに筆者作成)

ちなみに、社長は社長でも、他の社員と同じように会社に拘束されて働く「雇われ社長」は、会社の持ち主である「オーナー社長」よりストレスが大きいと想像されます。
「働かされている」という「やらされ感」を持って仕事をするのではなく、「主体的に」「自分で決められる」という仕事環境は健康に良い影響を与えるのでしょう。

幸せな人は長生きする〜日本の研究から〜

また、この「自分で決められる」ということ(自己決定)が、幸福感に影響を与えているという研究結果もあります。
神戸大学数理経済学の西村和雄特命教授らが、今年2月に実施したアンケートは、①所得、②学歴、③自己決定、④健康、⑤人間関係、以上5項目に関する質問に答えるというもの。
その結果……
・所得1,100万円を境に、それまで上昇していた幸福感が下がること
・学歴は統計的に有意な結果が得られなかったこと
・自己決定は、健康や人間関係に次いで幸福感に影響を与えており、所得と比較すると、約1.4倍強い影響があったこと
などが判明しました(参考:「幸福感と自己決定-日本における実証研究」独立行政法人経済産業研究所Discussion Paper Series、2018年)。

幸福感は長生きにつながる

イリノイ大学心理学部のエド・ディーナー教授は、過去の多くの研究者の研究結果から「幸福感が長生きにつながる」と結論づけています。(参考:Ed Diener, Micaela Y. Chan "Happy People Live Longer: Subjective Well-Being Contributes to Health and Longevity" Applied Psychology: Health and Wellbeing ,2011)
研究者の1人であるDannerによる2001年の「尼僧研究」では、幸福感が強かった尼僧のうち90%が85歳まで生きて、さらに54%が94歳まで生きたのに対し、幸福感が弱かった尼僧は、その11%しか94歳まで生きられなかったという結果が得られ、幸福感と寿命に関連性が見られました。

終わりに〜これからの働き方〜

社長は自分で決められる。
自分で決められることは幸福感につながる。
幸福感は長生きにつながる。
だから、社長は長生きする

いかがでしたか?

今は雇われの身であったとしても、「自分がこの会社の社長なら」と主体的能動的に考えるクセをつけるだけで、長生きする働き方に近づけるのではないでしょうか。

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