Vol.73
雨シーズンの不調はおうちケアで予防
2020.07.01
昔から「雨が降ると古傷が痛む」などと言われ、古くから私たちの体は天気と何らかの関係があると言われています。
近年、天気の変化によって起こる身体の不調を「気象病」と呼び、その研究が進められています。今回は、天気と痛みの関連、自宅で簡単にできる予防法をご紹介します。
■雨が降る仕組みって?
まず、小学校の理科の復習をしましょう。
低気圧は、周りから空気が集まってきて、その空気が上昇気流となって上空へのぼっていく性質をもっています。地面近くで暖かかった空気が上空で冷やされ、空気中の水蒸気が水や氷の粒になり、集まって雲になります。それらが大きくなり空に浮かんでいられなくなると雨(雪)として落下します。※1
つまり、低気圧が来ると雨が降るのです。
5月から7月にかけては梅雨前線による低気圧が日本列島に停滞します。
梅雨が終わり、8月から9月にかけては台風シーズンです。台風とは、熱帯の海上で発生する低気圧のうち、北西太平洋または南シナ海に存在し、なおかつ低気圧域内の最大風速がおよそ17m/s(34ノット、風力8)以上のものを指します。※2
雨が降ると体に不調が起こる仕組みには、この低気圧が深く関係しています。
■気圧が体に与える影響とは
気圧の変化による不調は、山登りに持って行ったお菓子の袋がパンパンに膨らんだという経験がある人には分かりやすいかもしれません。
山の上は低地より空気に押さえられる力が弱いため(つまり気圧が低いため)袋が膨張します。人間の体内でも同じようなことが起こります。
関節痛についていえば、低気圧のもとでは、関節包(関節を包む膜)が膨張することで周囲の神経を圧迫し、痛みが引き起こされます。
五十肩や関節リウマチなど関節に炎症があるような場合、その炎症の程度に比例して痛みは増します。
なお、鳥取大学の研究では、高圧酸素治療室を用いて、気圧の変化と関節内の関節包の変化を調査しました。関節包は気圧によって膨張・収縮しますが、痛みの出現には、気圧の高低だけではなく、その変化の速さも関係することがわかりました。※3
気圧の変化が急激で、移動のスピードも早い台風シーズンは、特に痛みがつらい、という声が多く聞かれるのも納得です。
■気圧が自律神経に与える影響とは
気象病の原因は、自律神経にあると言われています。自律神経には、活動の「交感神経」と休息の「副交感神経」とがあります。急な気圧の変化はストレスとなり、交感神経を刺激します。交感神経が優位になると、血管が収縮し、筋肉が緊張します。すると、血行が悪くなり、痛みを引き起こしやすい状態になります。
天気によって生じる痛みを「天気痛」と名付け、日本初の気象病外来・天気痛外来を開設した佐藤純医師らの共同研究グループは、気圧の変化を感じるセンサーが内耳(鼓膜の奥にあるカタツムリのような形をした器官)にあることを発見しました。そのセンサーが気圧の変化を感じとり、脳に情報が送られるのです。※4
■気象病を予防・コントロールしよう!
本来、私たちの身体には、このような天気の変化に順応する仕組みが備わっていて、気象病と縁がない人もいます。
天気の変化に対する順応力を上げるためにも(気象病を予防するためにも)、まずは自律神経のバランスを整えるような生活をしましょう。
具体的には、良質な睡眠と適度な運動を心がけ、ストレスをためず、規則正しい生活が望ましいです。
今回は1日1分で日常にマッサージを取り入れてみましょう。1日1分で手軽にできる「くるくる耳マッサージ」をご紹介します。
佐藤純医師考案のマッサージで、気圧センサーがある耳(内耳)の血流を良くすることで自律神経を整える効果があります。※5
■天気痛を予想できるアプリができた!
2020年3月、スマホアプリ「ウェザーニュース」で、天気痛が起こりやすいタイミングを予報するサービス「天気痛予報」が開始されました。
これは、株式会社ウェザーニューズが佐藤純医師と共同開発したアプリです。
天気痛予報では、天気痛が発症するリスクを「警戒」「注意」「やや注意」「安心」の4ランクで表示しています。リスクを事前に把握することで、予防行為(薬の準備やマッサージなど)につなげることができます。※6
いかがでしたでしょうか。
体の不調の仕組みを知ることで適切に予防し、これから来る雨シーズンを快適に過ごしましょう!
[参考]
※3 池畑孝次郎ら著「人工的気圧調節に同期して変化する下肢伸展挙上試験の角度」日生気誌39、2002
※4 「気象変化と痛み」脊髄外科vol.29、2015
「Lowering barometric pressure induces neuronal activation in the superior vestibular nucleus in mice」PLOS ONE誌オンライン版、2019
「『低気圧頭痛』は治せる!」飛鳥新社、2019
いずれも佐藤純著
(執筆者:萩原有紀)
バックナンバー
- Vol.123 最新の知見を盛り込んだ日常活動の指針
2024.09.01
- Vol.122 自分に合った飲酒量の見極めを
2024.08.01
- Vol.121 明らかになってきた飲酒量と病気の相関
2024.07.01
- Vol.120 国が初のガイドライン作成「健康に配慮した飲酒」とは
2024.06.01
- Vol.119 肥満症の治療や予防の新薬が登場
2024.05.01
- Vol.118 減量は食事・運動・体重「見える化」で
2024.04.01
- Vol.117 「肥満」の判定基準と「肥満症」の診断基準
2024.03.01
- Vol.116 アレルギー性鼻炎の治療法
2024.02.01
- Vol.115 慢性化すると危険な副鼻腔炎
2024.01.01
- Vol.114 生活の工夫でアレルギー性鼻炎を予防
2023.12.01
- Vol.113 外来・入院治療でかかるお金の話
2023.11.01
- Vol.112 限度額超過分を還付する高額療養費制度
2023.10.01
- Vol.111 丸わかり日本の医療制度と医療費の仕組み
2023.8.31
- Vol.110 認知症リスクを高める加齢性難聴
2023.8.01
- Vol.109 イヤホンやヘッドホンの利用に注意
2023.7.01
- Vol.108 耳鳴りやうつの原因にもなる難聴
2023.6.01
- Vol.107 食事と運動が高血糖改善の2本柱
2023.5.01
- Vol.106 食後に血糖値急上昇の血糖値スパイクに注意
2023.4.01
- Vol.105 生活習慣の見直しで高血糖を予防する
2023.3.01
- Vol.104 体内時計のリズムが狂う睡眠・覚醒障害
2023.2.01
- Vol.103 生活の質を低下させる睡眠中の異常行動
2023.1.01
- Vol.102 睡眠休養感と睡眠時間・床上時間の関係
2022.12.01
- Vol.101 帯状疱疹 50歳以上の人はワクチン接種の検討を
2022.11.01
- Vol.100 帯状疱疹 早期の治療開始で痛み緩和と後遺症予防
2022.10.01
- Vol.99 新型コロナ禍で増加中?帯状疱疹に要注意
2022.9.01
- Vol.98 五十肩との見極めが大切な腱板断裂
2022.8.01
- Vol.97 痛みが長期化することもある五十肩
2022.7.01
- Vol.96 1000万人以上が悩む肩こり・痛みを解消する
2022.6.01
- Vol.95 不整脈との付き合い方 種類や症状によって異なる治療法
2022.5.01
- Vol.94 不整脈との付き合い方 突然死につながる危険な「心室細動」
2022.4.01
- Vol.93 多種多様な不整脈 正しく知って適切に対処 心臓の拍動に異常が生じる病気の総称
2022.3.01
- Vol.92 40歳以上の人は必ず年1回の検診を受診しよう 命を守る大腸がん検診のすすめ
2022.2.01
- Vol.91 治療の幅を広げるロボット手術や分子標的薬
2022.1.01
- Vol.90 早期発見・早期治療でストップ!大腸がん
2021.12.01
- Vol.89 カビや羽毛が原因となる過敏性肺炎
2021.11.01
- Vol.88 体内にある細菌が引き起こす誤嚥性肺炎
2021.10.01
- Vol.87 身近にある肺炎の危険に注意
2021.09.01
- Vol.86 多量飲酒や生活習慣病が誘因となる脂肪肝
2021.08.01
- Vol.85 肝硬変や肝がんに進行することもある慢性肝炎
2021.07.01
- Vol.84 早期発見のカギは定期健康診断
2021.06.01
- Vol.83 「笑い」のパワーでNK細胞を活性化
2021.05.01
- Vol.82 免疫力を上げる生活習慣
2021.04.01
- Vol.81 砂糖との健康的な付き合い方
2021.03.01
- Vol.80 足を守る予防ケア
2021.02.01
- Vol.79 その症状、冬季うつかも
2021.01.01
- Vol.78 日本の年中行事と健康
2020.12.01
- Vol.77 冬支度をしよう
2020.11.01
- Vol.76 ニューノーマル時代に健康でいられる家
2020.10.01
- Vol.75 今こそ知りたいオンライン診療
2020.09.11
- Vol.74 夏野菜パワーで暑い夏を元気に過ごそう!
2020.08.01
- Vol.73 雨シーズンの不調はおうちケアで予防
2020.07.01
- Vol.72 テレワークと健康
2020.06.01
- Vol.71 メタボリックシンドローム予備群からの脱出
2020.05.01
- Vol.70 健康な人の時間管理
2020.04.01
- Vol.69 健康を心がけた外食とは
2020.03.01
- Vol.68 ボランティア活動をすると健康になれる?!
2020.02.01
- Vol.67 勉強すれば健康寿命が延びるって本当?!
2020.01.01
- Vol.66 体調を崩しやすい季節に試してほしい部分浴
2019.12.01
- Vol.65 趣味と健康の関係性
2019.11.01
- Vol.64 住み替えと健康
2019.10.01
- Vol.63 モノを減らすと健康になれる?!
2019.09.01
- Vol.62 夏のめまいを予防する3つの『す』
2019.08.01
- Vol.61 コミュニティナース
2019.07.01
- Vol.60 セカンドオピニオンのイロハ
2019.06.01
- Vol.59 ヘルスリテラシーを高めて健康寿命を延ばす
2019.05.01
- Vol.58 ゲームと健康
2019.04.01
- Vol.57 かかりつけ医の探し方
2019.03.01
- Vol.56 ラムネのお菓子で健康になれる?!
2019.02.01
- Vol.55 寒さに負けない筋肉のつくり方
2019.01.10
- Vol.54 代謝が上がると運気も上がる
2018.12.01
- Vol.53 社長が長生きする理由
2018.11.01
- Vol.52 本当の老後の備えとは
2018.10.10
- Vol.51 頭皮の健康習慣を考えてみませんか
2018.09.01
- Vol.50 経済的で健康的な天然のエアコンで夏を快適に
2018.08.01
- Vol.49 ラジオ体操の健康効果がすごい!
2018.07.01
- Vol.48 健康管理に役立つAI
2018.06.01
- Vol.47 タバコをやめて、お金持ち、健康持ちに
2018.05.01
- Vol.46 満員電車と働く人の健康
2018.04.01
- Vol.45 保健センターの活用法
2018.03.01
- Vol.44 健康のためにいくら使っていますか?
2018.02.01
- Vol.43 風邪を正しく理解しよう
2018.01.01
- Vol.42 暖房器具で健康を守る!
2017.12.01
- Vol.41 音楽を聴くだけでカラダにいいことがある?!
2017.11.01
- Vol.40 スポーツを観るだけで健康になれる?!
2017.10.01
- Vol.39 救急の日に考える救急車のお作法
2017.09.01
- Vol.38 献血で健康管理
2017.08.01
- Vol.37 夏の食中毒から身を守る方法
2017.07.01
- Vol.36 日記を書くだけで健康になれる?!
2017.06.01
- Vol.35 ナースに学ぶタッチング
2017.05.01
- Vol.34 ガッツポーズで元気になろう
2017.04.01
- Vol.33 花粉症と上手に付き合って春を楽しもう
2017.03.01
- Vol.32 インフルエンザ予防のカギは○○の湿度
2017.02.01
- Vol.31 お正月は胃腸と家計のリセットを!
2017.01.01
- Vol.30 お金持ちは姿勢が良い?!
2016.12.01
- Vol.29 ライフプランでお金と健康と生きがいをプランニング
2016.11.01
- Vol.28 健康とお金を守る働き方
2016.10.01
- Vol.27 三世代同居で金持ち元気持ち?!
2016.09.01
- Vol.26 健康のための旅行とその備え
2016.08.01
- Vol.25 休み上手になって稼ぎ力アップ!
2016.07.01
- Vol.24 心身とお家計に効く和食
2016.06.01
- Vol.23 貧乏ゆすりは金持ちゆすり?!
2016.05.01
- Vol.22 離れて暮らす親の健康とお金を守る
2016.04.01