Vol.75
今こそ知りたいオンライン診療
2020.09.11
新型コロナウイルス感染症が広がるなか、人との接触による感染を防ぐため、病院に行くことを控える人が増えています。懸念されるのは、このような「受診控え」による病気発見の遅れや重症化です。
そこで、人との接触を減らす対策の一環として推奨されるのが「オンライン診療」です。この機会に、オンライン診療を正しく理解しましょう。
■オンライン診療とは
「遠隔医療のうち、医師―患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為」のことをオンライン診療と呼びます。(厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」平成30年3月、令和元年7月一部改訂より)
遠隔医療というのは、パソコンやスマートフォンなどの情報通信機器を活用した医療のことで、オンライン診療のほか、遠隔医療相談、遠隔診断、遠隔モニタリング、遠隔見守りなど、健康や医療に関するさまざまな行為を指します。
オンライン診療というと、これまでは山間部や離島といった医療過疎地での利用がイメージされましたが、2018年度の診療報酬改定で、「オンライン診療料」(月71点)が新設され、オンライン診療も広く保険医療のひとつとして知られることになりました。
■オンライン診療のルールについて
診療報酬改定により身近になったとはいえ、当初は多くのルールが設けられていたため、誰でもいつでもどこでもオンライン診療が受けられるわけではありませんでした。
まず、対象となるのは慢性疾患などの症状が安定している継続受診の患者で、3か月以上通院した医師により、症状が安定していると判断されればオンライン診療が可能とされていました。
他にも、医療機関がオンライン診療料を算定するには、全診療におけるオンライン診療の割合を1割以下にする必要があったり、オンライン研修を実施する医師は研修を受講しなければならないなど、オンライン診療はまだ特別なものでした。
それが、新型コロナウイルス感染拡大を受け、「院内感染を含む感染防止のため、非常時の対応として、オンライン・電話による診療、オンライン・電話による服薬指導が希望する患者によって活用されるよう直ちに制度を見直し、できる限り早期に実施する」(「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」令和2年4月7日閣議決定より)ことが決まり、同月10日に、オンライン診療のルールを時限的・特例的に緩和する対応策(厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」令和2年4月10日付事務連絡)が示されました。
以下に、取扱いが変わるポイントをまとめます。
- a.初診からオンライン診療が受けられるようになった。
- b.あらゆる病気がオンライン診療の対象となった(※)。
- c.3か月の受診歴が不要となった。
- d.電話音声のみでもオンライン診療が受けられるようになった。
- e.全診療におけるオンライン診療料の割合を1割以下とする基準を撤廃した。
- f.オンライン診療の研修を受けていない医師でも診察ができるようになった。
※コロナ禍においては、時限的・特例的にあらゆる病気を対象にオンライン診療が認められていますが、実際にオンライン診療ができるのは「医師が電話や情報通信機器を用いた診療により診断や処方が当該医師責任の下で医学的に可能であると判断した範囲」(前掲4月10日付の厚生労働省事務連絡より)です。つまり、病気や状態によっては触診や聴診等が必要と判断され、オンライン診療ができないケースもあります。
■オンライン診療の利用法について
このように、さらに身近になったオンライン診療ですが、いったいどこの病院にどのように連絡すればいいのか、薬はどうやってもらうのか、支払いはどうするのか、などは、厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえたオンライン診療について」が参考になります。
このサイトを開くと、時限的・特例的なルールのもとでオンライン診療を行なっている医療機関の一覧を見ることができます。また、オンライン診療の手順についても丁寧に書かれていますので、ぜひ一度確認してみてください。
〈厚生労働省「電話・オンラインによる診療がますます便利になります」ポスターより〉
■オンライン診療の現状とこれから
コロナ禍が収束し、この時限的・特例的措置が廃止されれば、再び一定のルールが復活する予定ですが、コロナ禍で経験値を上げたことにより、今まで以上に使いやすくなり、多くの人がさまざまなシーンでオンライン診療のメリットを享受することができることが期待されます。
オンライン診療の利用により、最も期待される効果として挙げられるのが、高血圧や糖尿病などの生活習慣病患者が、定期的な通院負担から治療を中断し、重症化してしまうことを防ぐという効果です。
高血圧は、脳卒中や心筋梗塞のほか、血液透析が必要となる慢性腎臓病といった大病を引き起こしかねない病気であるにもかかわらず、自覚症状がないため放置されやすいという理由に加え、仕事などで忙しく、定期的な通院が難しいという理由もあるようです。仕事以外でも育児や介護で忙しい人の助けにもなってくれるでしょう。
また、オンライン診療は、病院の待合室での感染リスクを減らします。抵抗力の弱い人(高齢者や持病を抱えた人)にしてみれば、新型コロナウイルスに加えて他のインフルエンザウイルスなどの感染リスクが高まるこれからの季節の待合室は脅威です。
オンライン診療について正しく理解し、上手に活用することで、病気の再発や重症化を防ぐことができます。それは、自分の健康を守るだけでなく、他人の健康を守り、ひいては日本の医療体制を守ることにもつながります。
(執筆者:萩原有紀)
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