Vol.78
日本の年中行事と健康
2020.12.01
四季がある日本では、それぞれの季節に応じたさまざまな行事が行われます。12月といえばクリスマスが定番になっていますが、その前に「冬至」という年中行事があります。冬至の日にかぼちゃ料理を食べたり、ゆず湯に入ったりしたことはありませんか? これらの年中行事には人々の健康に対する感謝や願いが込められています。
■日本には24もの季節がある?!
日本には春夏秋冬という四季があります。でも実は、太陽の運行をもとにした24もの季節があるということを知っていましたか? 太陽が最も低く、昼間が短い冬至をスタートに約15日ごとに区切られた「二十四節気」(下表参照)は、もともと農耕の目安とするために考え出されました。
これに加えて「雑節」(節分、社日、八十八夜、入梅、半夏生、土用、二百十日、彼岸、二百二十日)も農耕にとって重要な節目です。
(参考図書:山本三千子「日本人が知っておきたい和のしきたり」三笠書房、2015年)
二十四節気につけられた名前は、その季節の自然環境や気候の特徴を言い表しているものが多く、先人たちはその特徴を活かした暮らし方や食材選びを実践してきました。
冬について言えば、「立冬」(冬の始まり)、「小雪」(雪がみえる)、「大雪」(雪が降る)、「冬至」(昼が一番短く、夜が一番長くなる)、「小寒」(寒さがピークに向かう)、「大寒」(最も寒い)という順番に季節が進みます。
ちなみに、二十四節気は年によって日にちが変わります。今年度の二十四節気を見ると、立冬が2020年11月7日、小雪は11月22日、大雪は12月7日、冬至は12月21日、小寒が2021年1月5日、大寒が1月20日となっています。
中でも、夜が最も長くなる冬至は、昔の人にとっては不安な季節でした。寒くて暗くて、最も食料が手に入りにくい季節だったからです。そこで「かぼちゃ」や「ゆず」が一役買ったのです。
(参考図書:村上百代著「二十四節気に合わせ心と体を美しく整える」株式会社楓書店、2015年)
■冬至にかぼちゃを食べるのはなぜ?
本来かぼちゃの旬は夏です。長期保存が可能なかぼちゃは、野菜の少ない冬に備えることができ、また、保存している間に熟成されデンプンが糖分に変化し、より美味しくなるという嬉しい特典もついてきます。
夏野菜は体を冷やす作用のある野菜が多いのですが、かぼちゃは夏野菜としては珍しく身体を温める効果がある食材です。これが「冬至にかぼちゃを食べると風邪をひかない」と言われる所以ですが、それだけではありません。
かぼちゃには、β—カロテンやビタミンCが多く含まれています。特に、β—カロテンには抗酸化作用があり、また、体内でビタミンAに変わり、感染症の予防やがんの抑制のために働きます。感染症が増える冬の時期に最適な野菜といえます。
(参考図書:「旬の野菜の栄養辞典 最新版」株式会社エクスナレッジ、2016年)
冬でも多くの野菜を手に入れることができるようになった現代ですが、旬の時期の安い野菜を冷凍するなどして保存しておくことは、健康面でも家計面でも賢い方法です。
■冬至にゆず湯に入るのはなぜ?
(1)2人に1人がゆず湯に入る・入りたいと思っている!?
昔、ゆずの強い香りには邪気払いがあると信じられており、不安が募りがちな冬至のゆず湯は大事な年中行事とされていました。
では、電気や暖房、食料がある現代において、どのくらいの人たちがゆず湯に入っているのでしょうか?
冬至にゆず湯に入るかどうかを調査した結果、「入るつもり」と答えた人が56%と過半数だったそうです。(2019年12月22日ウェザーニュースより)。
(2)ゆず湯の効果
では、ゆず湯にはどのような効果があるのでしょうか?
ゆず湯に入ると、体が温まり、湯冷めしにくいと言われていますが、これはゆずの皮の働きによるものです。ゆずの皮にはテルペン化合物を多く含む精油がたくさん含まれていて、その成分がお湯に広がります。テルペン化合物というのは、皮膚浸透性がよく、肌から体の中に入り、血管を収縮させます。収縮した血管を拡張させるホルモン(ノルアドレナリン)が分泌されることで、結果的には入浴後は血管が通常よりも多く拡張し、血行促進につながります。
また、ゆず果皮には皮膚の角質化を防ぐ効果があるビタミンEが多く含まれているため、冬のカサカサ肌を滑らかにしてくれます。
(参考図書:沢村正義著「ユズの香り」フレグランスジャーナル社、2013年)
日本人は江戸時代からゆず湯に入るようになりました。当時はゆずの強い香りが邪気払いの意味合いを持ちましたが、ストレス社会といわれる現代においては、その香りのリラクゼーション効果に期待が寄せられています。いつの時代もゆずの香りは人々の心を癒してくれているのです。
(3)ゆず湯に入る際の注意点
お子さまや敏感肌の人は、ゆずの量を減らしたり、皮をお湯に入れる前に湯洗いするなどしてください。刺激が強いと皮膚に炎症を起こすことがあります。
また、12月に増える入浴中の事故(ヒートショック)にも注意してください。この点については、Vol.42「暖房器具で健康を守る!」を参考にしてください。
(参考図書:沢村正義著「ユズの香り」フレグランスジャーナル社、2013年)
■まとめ
季節の移り変わりのタイミングは体調を壊しやすいため、節目節目で旬のものを食べたりする年中行事を通して、体メンテナンスをするということは非常に理にかなっています。
家族形態の変化により、祖父母世代から伝統を受け継ぐ機会が減っていますが、書籍やネットなどで情報が得やすい時代でもあります。日本の年中行事を改めて見直してみてはいかがでしょうか?
(執筆者:萩原有紀)
バックナンバー
- Vol.128 部分切除の適応が増えている腎がん
2025.02.01
- Vol.127 膀胱がんは早期なら膀胱温存も可能
2025.01.09
- Vol.126 男性の罹患数1位の前立腺がん
2024.12.05
- Vol.125 週2〜3日の筋トレで健康増進
2024.10.31
- Vol.124 身体活動・運動ガイド 国が10年ぶりに内容刷新
2024.10.01
- Vol.123 最新の知見を盛り込んだ日常活動の指針
2024.09.01
- Vol.122 自分に合った飲酒量の見極めを
2024.08.01
- Vol.121 明らかになってきた飲酒量と病気の相関
2024.07.01
- Vol.120 国が初のガイドライン作成「健康に配慮した飲酒」とは
2024.06.01
- Vol.119 肥満症の治療や予防の新薬が登場
2024.05.01
- Vol.118 減量は食事・運動・体重「見える化」で
2024.04.01
- Vol.117 「肥満」の判定基準と「肥満症」の診断基準
2024.03.01
- Vol.116 アレルギー性鼻炎の治療法
2024.02.01
- Vol.115 慢性化すると危険な副鼻腔炎
2024.01.01
- Vol.114 生活の工夫でアレルギー性鼻炎を予防
2023.12.01
- Vol.113 外来・入院治療でかかるお金の話
2023.11.01
- Vol.112 限度額超過分を還付する高額療養費制度
2023.10.01
- Vol.111 丸わかり日本の医療制度と医療費の仕組み
2023.08.31
- Vol.110 認知症リスクを高める加齢性難聴
2023.08.01
- Vol.109 イヤホンやヘッドホンの利用に注意
2023.07.01
- Vol.108 耳鳴りやうつの原因にもなる難聴
2023.06.01
- Vol.107 食事と運動が高血糖改善の2本柱
2023.05.01
- Vol.106 食後に血糖値急上昇の血糖値スパイクに注意
2023.04.01
- Vol.105 生活習慣の見直しで高血糖を予防する
2023.03.01
- Vol.104 体内時計のリズムが狂う睡眠・覚醒障害
2023.02.01
- Vol.103 生活の質を低下させる睡眠中の異常行動
2023.01.01
- Vol.102 睡眠休養感と睡眠時間・床上時間の関係
2022.12.01
- Vol.101 帯状疱疹 50歳以上の人はワクチン接種の検討を
2022.11.01
- Vol.100 帯状疱疹 早期の治療開始で痛み緩和と後遺症予防
2022.10.01
- Vol.99 新型コロナ禍で増加中?帯状疱疹に要注意
2022.09.01
- Vol.98 五十肩との見極めが大切な腱板断裂
2022.08.01
- Vol.97 痛みが長期化することもある五十肩
2022.07.01
- Vol.96 1000万人以上が悩む肩こり・痛みを解消する
2022.06.01
- Vol.95 不整脈との付き合い方 種類や症状によって異なる治療法
2022.05.01
- Vol.94 不整脈との付き合い方 突然死につながる危険な「心室細動」
2022.04.01
- Vol.93 多種多様な不整脈 正しく知って適切に対処 心臓の拍動に異常が生じる病気の総称
2022.03.01
- Vol.92 40歳以上の人は必ず年1回の検診を受診しよう 命を守る大腸がん検診のすすめ
2022.02.01
- Vol.91 治療の幅を広げるロボット手術や分子標的薬
2022.01.01
- Vol.90 早期発見・早期治療でストップ!大腸がん
2021.12.01
- Vol.89 カビや羽毛が原因となる過敏性肺炎
2021.11.01
- Vol.88 体内にある細菌が引き起こす誤嚥性肺炎
2021.10.01
- Vol.87 身近にある肺炎の危険に注意
2021.09.01
- Vol.86 多量飲酒や生活習慣病が誘因となる脂肪肝
2021.08.01
- Vol.85 肝硬変や肝がんに進行することもある慢性肝炎
2021.07.01
- Vol.84 早期発見のカギは定期健康診断
2021.06.01
- Vol.83 「笑い」のパワーでNK細胞を活性化
2021.05.01
- Vol.82 免疫力を上げる生活習慣
2021.04.01
- Vol.81 砂糖との健康的な付き合い方
2021.03.01
- Vol.80 足を守る予防ケア
2021.02.01
- Vol.79 その症状、冬季うつかも
2021.01.01
- Vol.78 日本の年中行事と健康
2020.12.01
- Vol.77 冬支度をしよう
2020.11.01
- Vol.76 ニューノーマル時代に健康でいられる家
2020.10.01
- Vol.75 今こそ知りたいオンライン診療
2020.09.11
- Vol.74 夏野菜パワーで暑い夏を元気に過ごそう!
2020.08.01
- Vol.73 雨シーズンの不調はおうちケアで予防
2020.07.01
- Vol.72 テレワークと健康
2020.06.01
- Vol.71 メタボリックシンドローム予備群からの脱出
2020.05.01
- Vol.70 健康な人の時間管理
2020.04.01
- Vol.69 健康を心がけた外食とは
2020.03.01
- Vol.68 ボランティア活動をすると健康になれる?!
2020.02.01
- Vol.67 勉強すれば健康寿命が延びるって本当?!
2020.01.01
- Vol.66 体調を崩しやすい季節に試してほしい部分浴
2019.12.01
- Vol.65 趣味と健康の関係性
2019.11.01
- Vol.64 住み替えと健康
2019.10.01
- Vol.63 モノを減らすと健康になれる?!
2019.09.01
- Vol.62 夏のめまいを予防する3つの『す』
2019.08.01
- Vol.61 コミュニティナース
2019.07.01
- Vol.60 セカンドオピニオンのイロハ
2019.06.01
- Vol.59 ヘルスリテラシーを高めて健康寿命を延ばす
2019.05.01
- Vol.58 ゲームと健康
2019.04.01
- Vol.57 かかりつけ医の探し方
2019.03.01
- Vol.56 ラムネのお菓子で健康になれる?!
2019.02.01
- Vol.55 寒さに負けない筋肉のつくり方
2019.01.10
- Vol.54 代謝が上がると運気も上がる
2018.12.01
- Vol.53 社長が長生きする理由
2018.11.01
- Vol.52 本当の老後の備えとは
2018.10.10
- Vol.51 頭皮の健康習慣を考えてみませんか
2018.09.01
- Vol.50 経済的で健康的な天然のエアコンで夏を快適に
2018.08.01
- Vol.49 ラジオ体操の健康効果がすごい!
2018.07.01
- Vol.48 健康管理に役立つAI
2018.06.01
- Vol.47 タバコをやめて、お金持ち、健康持ちに
2018.05.01
- Vol.46 満員電車と働く人の健康
2018.04.01
- Vol.45 保健センターの活用法
2018.03.01
- Vol.44 健康のためにいくら使っていますか?
2018.02.01
- Vol.43 風邪を正しく理解しよう
2018.01.01
- Vol.42 暖房器具で健康を守る!
2017.12.01
- Vol.41 音楽を聴くだけでカラダにいいことがある?!
2017.11.01
- Vol.40 スポーツを観るだけで健康になれる?!
2017.10.01
- Vol.39 救急の日に考える救急車のお作法
2017.09.01
- Vol.38 献血で健康管理
2017.08.01
- Vol.37 夏の食中毒から身を守る方法
2017.07.01
- Vol.36 日記を書くだけで健康になれる?!
2017.06.01
- Vol.35 ナースに学ぶタッチング
2017.05.01
- Vol.34 ガッツポーズで元気になろう
2017.04.01
- Vol.33 花粉症と上手に付き合って春を楽しもう
2017.03.01
- Vol.32 インフルエンザ予防のカギは○○の湿度
2017.02.01
- Vol.31 お正月は胃腸と家計のリセットを!
2017.01.01
- Vol.30 お金持ちは姿勢が良い?!
2016.12.01
- Vol.29 ライフプランでお金と健康と生きがいをプランニング
2016.11.01
- Vol.28 健康とお金を守る働き方
2016.10.01
- Vol.27 三世代同居で金持ち元気持ち?!
2016.09.01
- Vol.26 健康のための旅行とその備え
2016.08.01
- Vol.25 休み上手になって稼ぎ力アップ!
2016.07.01
- Vol.24 心身とお家計に効く和食
2016.06.01
- Vol.23 貧乏ゆすりは金持ちゆすり?!
2016.05.01
- Vol.22 離れて暮らす親の健康とお金を守る
2016.04.01