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健康コラム

Vol.88

体内にある細菌が引き起こす誤嚥性肺炎

2021.10.01

増加傾向が続く死亡者数、高齢期の予防が健康寿命を延ばすカギ

多くの病気は個々の人の特性(基礎疾患・年齢・既往症など)や遺伝的背景などの固有の性質に、環境因子や外的要因が加わって発症します。肺炎も同様で、その人固有の因子は変えられませんが、環境因子はそれを知り注意することや予防策を講じることで、罹患するリスクを減らすことができます。

新型コロナウイルス肺炎を例にとれば、基礎疾患のある方や高齢者が罹患した際に重症化しやすいというのは、動かしがたい個人の固有の要素。一方で、ウイルス感染による肺炎であるため、環境因子としての「3密対策」が予防に有効であることはご存知の通りです。

肺炎には多様なものがあり、それぞれに予防策が異なります。人から人へと感染する肺炎では人との距離を取る、換気をするなどが予防につながります。

一方で、自身の体内に常在する細菌によって発症する肺炎もあります。その典型が「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」です。原因は主に誤嚥してのみ込む唾液などに含まれる口腔内の雑菌。本来なら食道を通って胃に運ばれる飲食物や唾液などが空気の通り道である気管に誤って入り込むことが「誤嚥」です。肺にとって飲食物や唾液は雑菌にまみれた異物ですし、嘔吐に伴って逆流した胃酸が肺に入ると肺の強い傷害を伴う肺炎となります。嚥下(えんげ)機能(食物などをのみ下す機能)が衰えた高齢者に多く、超高齢社会に突入している日本では、それによる死亡者も増加傾向が続いています。

主な死因別の死亡率

肺炎になると、発熱や咳、たん、呼吸困難などの症状が出ますが、高齢者の場合、症状がはっきりしないことが多く、体温も平熱か、微熱程度にとどまることが少なくないのが厄介な点です。このため、いつもより元気がなくて呼吸数が増えていたり、皮膚や舌が乾燥する脱水の兆候が出たりしたら、肺炎の可能性を疑う必要があるでしょう。

高齢者の誤嚥性肺炎を防ぐことは健康寿命を延ばすための重要な要素。とくに誤嚥性肺炎を起こしたことのある高齢者や脳卒中の後遺症、パーキンソン病があるなどリスクが高い人は、食事中は食べること・のみ込むことに集中し、嚥下した後に会話する、アルコールはほどほどにして深酒を避ける、食後すぐに横にならないなどの注意が必要です。また、普段から意識して大きな声を出したり、歌ったりすることで舌・のどの筋肉を保つよう努めましょう。

口腔内を清潔に保つこと、とくに歯や義歯を清潔に保つことも極めて重要です。雑菌だらけの口腔内を清潔に保つことよって誤嚥性肺炎が重症化するリスクを抑えることができます。

生島 壮一郎

監修/生島 壮一郎

産業医科大学卒業後、日本赤十字社医療センター(東京)の呼吸器内科部長などを経て、現在は企業の産業医を務めながら同科の非常勤医師として診療を続けている。

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