検索

健康コラム

Vol.91

治療の幅を広げるロボット手術や分子標的薬

2022.01.01

4大治療法から最適な治療法を選択

大腸がんは、内視鏡的治療・手術療法・薬物療法・放射線療法の4つの方法を単独、または組み合わせて治療します。治療法を選ぶ判断材料のひとつが、がんの進行度を示す病期(ステージ)です。日本では一般に大腸癌研究会による、ステージ0からⅣまでの5段階に分けたステージ分類に応じて治療方針が提示され、さらに患者の全身状態や年齢、持病の有無、家族の希望なども勘案して最終的に決められます。

早期がん(ステージ0とⅠの一部)の場合の第1選択肢は内視鏡的治療。先端にカメラのついた細長い管状の内視鏡により撮影した画像をモニターに映して観察しながら治療します。大腸がんの場合は肛門から内視鏡を挿入。手術に比べて痛みが少なく、回復が早いなど、体への負担が小さい治療法です。最近は拡大内視鏡の開発・進化が進んで、より詳細な画像が確認できるようになっており、画像だけで良性・悪性の診断まで可能になっています。

一方、ステージⅠのうちで浸潤(がん細胞の広がり具合)が深いものやステージⅡ・Ⅲの進行がんでは手術療法が検討されます。開腹手術と腹腔鏡手術の2つがあり、このうち近年注目されているのが腹腔鏡手術。お腹に複数の小さな穴を開け、そこから器具を挿入して行う手術法で、傷口が小さいため術後の痛みが少ないなど体への負担が小さいという利点がある半面、医師の側には高度な技術と経験が求められます。

大腸がんの主な治療法

この腹腔鏡手術の強力な助っ人として増えているのが手術支援ロボット。医師が画面を見ながら遠隔操作し、ロボットの複数のアームが正確で繊細な手術を担います。2018年には大腸がんのうち直腸がんの手術で健康保険が適用。国産初のロボットも登場し前立腺がんの腹腔鏡手術などで保険適用されており、今後さらに普及が進みそうです。

薬物療法は、手術後の再発予防や切除できない進行・再発がん治療が目的の補助療法。最近は分子標的薬と呼ばれる新たなタイプの薬剤が登場し、治療の幅が広がっています。従来の抗がん剤ががん細胞だけでなく正常細胞も攻撃するため、副作用がひどかったのに対し、分子標的薬はがんの発生や増殖に関係する遺伝子やたんぱく質だけを狙って攻撃するため、副作用が少なくて済む利点があります。事前に患者のがん細胞の遺伝子を調べ、どの薬が効きそうか調べたうえで治療に入るため、治療効果が高い点も大きなメリットです。

放射線療法は薬物療法と同様の補助療法で、手術前にがんを小さくする治療などで活用されています。

福長 洋介

監修/福長 洋介

がん研有明病院消化器センター長・大腸外科部長。大阪市立大学医学部を卒業、同市立総合医療センターなどを経て現職。近著に『大腸がん』(主婦の友社)。

バックナンバー

全てを表示閉じる