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健康コラム

Vol.110

認知症リスクを高める加齢性難聴

2023.8.01

専門医に相談して 補聴器使用の検討を

一般社団法人日本補聴器工業会が公益財団法人テクノエイド協会の後援とEHIMA(欧州補聴器工業会)の協力を得て実施している、難聴と補聴器使用の実態調査「Japan Trak 2022」によると、日本の難聴者率(難聴、またはおそらく難聴だと思っている人の割合)は10.0%で、75歳以上では34.4%に上ります。しかし、難聴者のうち補聴器を所有している人の割合は15.2%。前回調査(2018年)の14.4%に比べると若干上昇していますが、イギリス(53%)やフランス(46%)、韓国(36%)などに比べると低い水準です。

難聴のうち、加齢が原因で起こる加齢性難聴は「聞こえ」が悪くなるだけでなく、認知症のリスクを高めることもわかってきています。難聴で音の情報があまり入ってこなくなると、脳の活動が低下すること、また他者とのコミュニケーションの機会が減少することが原因と考えられ、うつ病の発症要因になるとの指摘もあります。

「もう年だから」と言って難聴を放置するのは危険。補聴器の使用に抵抗を感じる人も少なくないと思いますが、むしろ積極的に使用することをおすすめします。近年の補聴器は小型化が進み、ファッショナブルなデザインの製品も増えており、カラーバリエーションも豊富。機能面でもデジタル化による繊細な音の調整や雑音抑制などが可能になるなど進化しています。

「相手の声が聞き取りづらい」と感じるようになったら「補聴器相談医」(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のHPで名簿を公開)がいる耳鼻咽喉科を受診して相談してみましょう。

そこで補聴器の使用を勧められたら、医師の意見書をもって「認定補聴器技能者」がいる補聴器販売店に行きます。

店では認定補聴器技能者のサポートを受けながら聴力に合った補聴器が選べ、調整もしてもらえます。ただし、注意したいのは、補聴器を着けたからといってすぐにはっきりと音が聞き取れるわけではありません。最初は不快に聞こえることもありますが、3か月程度の「慣らし」を行うことで、徐々によく聞こえるようになるのです。

難聴を治す薬はありませんが、それ以上「聞こえ」を悪化させないために注意してほしいことはあります。血流を悪化させて内耳の有毛細胞に損傷を与える可能性のある喫煙をやめることや肥満・糖尿病などの予防に努めることです。血液循環を良くしてストレス解消にも一定の効果がある適度な運動を続けることも有効とされています。

「聞こえる生活」を守るために

小川 郁

監修/小川 郁(かおる)

慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科教授を経て同大名誉教授。オトクリニック東京院長。専門は聴覚障害の予防・治療。

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