Vol.129
健康コラム

腎盂・尿管がんは腎尿管全摘除が標準術式

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発症数は少ないものの多発・再発しやすいがん

腎臓では、血液をろ過して作った尿が腎盂(じんう)へ流れ込み、さらに尿管という管を通って膀胱に運ばれ、最後は尿道から体外へ排出されます。この一連の尿の通り道のうち、上部尿路と呼ばれている腎盂と尿管にできる悪性腫瘍が、腎盂がんと尿管がんです。

厚生労働省の全国がん登録罹患数・率報告によると、2020 年の年齢調整罹患率(人口10万人対)は腎盂がんが1.4、尿管がんが1.2。下部尿路である膀胱がんの7.0 に比べると、罹患率の低いがんです。

腎盂・尿管がんの検査は、尿検査、尿細胞診、静脈性尿路造影、逆行性腎盂造影、造影CT、MRI などに加え、膀胱がんの併発がないかどうかをチェックするため、膀胱鏡検査などを行って確定診断をします。それでも、はっきりとした診断ができない場合は、入院のうえ、麻酔下で尿管鏡検査を行うこともあります。この検査は、尿管鏡下で腫瘍の一部を生検し、がんを診断して悪性度などを確認するものです。

そのうえで治療法が検討されますが、腎盂・尿管がんはそのほとんどが、尿路の内側の尿路上皮と呼ばれる部分から発生するという性質を有しています。前々号でご紹介した膀胱がんも同様の性質を有しており、これらの尿路上皮にできるがんは多発したり、再発したりしやすい点に注意が必要で、腎盂・尿管がんの治療後に膀胱がんが発生するケースなどがあります。

腎臓と尿路

このため、腎盂・尿管がんの治療は、がんのある側の腎臓・尿管のすべてと、膀胱の一部を摘出する「腎尿管全摘除術+膀胱部分切除術」が、標準術式となります。

開腹手術のほか、体への負担がより小さい腹腔鏡手術、さらに最近はロボット支援手術の症例も増えています。

一方、腎臓の機能が悪い人や腎臓が片方しかない人の場合、尿管を部分的に切除して残った正常な尿管をつなぎ合わせる手術や、内視鏡とレーザーを使用してがんを切除する手術が検討されます。ただし、これは悪性度が低く、浸潤していないがんに対して行われるのが基本で、誰にでも適応できるわけではありません。

がんの再発や転移がある場合は、その症状の緩和や進行の抑制を主目的に、抗がん剤や免疫療法を使った薬物療法を行います。複数の薬剤を使う多剤併用化学療法が一般的です。また、抗がん剤を手術と組み合わせて、術前や術後に使う場合もあります。

このほか、転移巣に放射線を照射して痛みの軽減を図ることもあります。

木村 高弘

東京慈恵会医科大学泌尿器科学講座教授。専門は泌尿器悪性腫瘍の治療、腹腔鏡手術、ロボット支援手術。