Vol.72
テレワークと健康
2020.06.01
新型コロナ感染症拡大防止のため、外出の自粛が求められ、テレワークをする人が急激に増えました。健康を守るためのテレワークですが、時と場合によっては健康を害してしまう恐れもあります。
今回は、テレワークによって引き起こされかねない健康二次被害を取り上げ、その対策について考えてみたいと思います。
■テレワークで減ったものは?
テレワークとは「情報通信技術(ICT=Information and Communication Technology)を活用した時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」のこと。Tele(離れて)とWork(仕事)を組み合わせた造語です。(厚生労働省テレワーク総合ポータルサイトより)
テレワークは、「通勤時間が削減できる」「災害やパンデミック(感染症流行)の際も仕事が継続できる」などプラス面がある一方で、「運動不足になりやすい」というマイナス面が懸念されています。実際、テレワークにより、1日の歩数がおよそ30%減少したという調査結果(筑波大学大学院と健康機器メーカーのタニタとの共同研究)があります。
■どんな運動がおすすめ?
運動は、肥満、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の予防や、メタボリックシンドローム等の発症リスク、加齢に伴う生活機能低下(ロコモティブシンドローム、認知症等)のリスクを下げる効果があります。
厚生労働省は、「健康づくりのための身体活動基準2013」の中で、18〜64歳の運動基準として、「運動強度が3メッツ以上の運動を『4メッツ・時/週』(※)」行うことを定めています。これは息が弾み汗をかく程度の運動を毎週60分以上行うということです。「3メッツ以上の運動」については、下表でいくつか例を挙げます。
※メッツ・時とは、運動強度の指数であるメッツに運動時間を乗じたもの。4メッツ・時は、4メッツの身体活動を1時間行った場合のこと。
何かできそうなものはありますか?特にラジオ体操は、手軽で始めやすく、テレワークの合間に家でもできる運動です。
合わせてVol.49「ラジオ体操の健康効果がすごい!」もお読みください。
■こころの病に効くものとは?
運動不足は、身体的健康を害するのみならず、精神的健康をも脅かします。
みなさんは、運動をして気分がスッキリ軽くなったという経験はありませんか?それは運動によりセロトニンなどの脳内物質の分泌が促されるからです。そのため、運動不足などによって、これらの脳内物質が減ると、うつ病が引き起こされることがあります。
うつ病とは精神活動が低下し、抑うつ気分、興味や関心の欠如、不安・焦燥、精神運動の制止あるいは激越、食欲低下、不眠などが生じ、生活上の著しい苦痛や機能障害を引き起こす精神疾患です。(厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」より)
最近では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、「コロナうつ」「テレワークうつ」という言葉も生まれました。これは、ウイルス感染拡大そのものに対する不安だけでなく、外出自粛によるストレスや運動不足などが原因になっていると考えられます。
うつ病の治療方法としては、抗うつ剤などによる薬物療法がありますが、それと匹敵するほど運動療法の効果が高いことが証明された米デューク大学ブルメンサル教授らの研究報告をご紹介します。
この研究で、うつ病患者156人(50歳以上)を、①抗うつ剤を投与する、②運動をする、③抗うつ剤と運動を併用するという3つのグループに分けて行ったところ、①は68.8%、②は60.4%、③は65.5%の人でうつ病が解消されました。さらに6か月後の再発率についての追跡調査では、①は38%、②は8%、③は45%との結果でした。つまり、運動のみをしたグループは薬の副作用の心配もなく、うつ病再発率も低いという優れた結果だったのです。
■安全に運動をするために
スポーツ庁も、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため外出の自粛を求める一方で、「身体的及び精神的な健康を維持する上では、体を動かしたり、スポーツを行うことが必要」とし、「『新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針』においては、外出の自粛の対象とならない外出の例として、屋外での運動や散歩等が生活の維持に必要なもの」とされています。
スポーツ庁では「安全に運動・スポーツをするポイント」も紹介していますので、運動を行う際の参考にしてください。
いかがでしたか?
外出自粛の中でも、安全な環境を確保して適度に運動することで、体力をつけ、精神面を安定させることができます。体力がつき、精神面が安定すれば、免疫力も高まり、病気にかかりにくくなりますので、ぜひ運動を心がけてください。
ただし、高齢者や基礎疾患などある方は、かかりつけ医に相談しながら行なってください。
大樹生命は2020年4月23日よりスマホアプリ「大樹らいふ倶楽部」に新機能「大樹 PersonalGYM」を搭載いたしました。お客さまの健康診断・人間ドックの結果を入力することで、その数値に対してメッセージと適した運動コンテンツを提供する機能となっております。この機会にぜひ自分に適した運動が何か確認してみてください。
(執筆者:萩原有紀)
<参考資料>
デューク大のレポートの原文
Effects of exercise training on older patients with major depression, Archives of internal medicine,1999
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