健康コラム

Vol.126

男性の罹患数1位の前立腺がん

2024.12.05

死亡数は男性のがん6位 PSA検査で早期発見を

前立腺は、膀胱の下にある栗の実ほどの大きさをした男性特有の臓器。ここから分泌される前立腺液が精液の一部となって精子を保護し、活発化するなどの役割を果たしています。

その前立腺に発症する悪性腫瘍の前立腺がんは、年間10万例近い罹患数が報告(国立がん研究センターがん情報サービスの「2023年がん統計予測」)されており、男性のがんでもっとも罹患数の多いがんです。一方、死亡数は1万4000人(同)で、男性のがんの死亡順位では6位にとどまり、早期に発見して適切に治療をすれば、治癒が期待できるがんといえます。

近年は、前立腺でつくられるたんぱく質の一種であるPSA(前立腺特異抗原)を前立腺がんの腫瘍マーカーとする検査が普及し、早期前立腺がんの発見が可能となりました。このPSA検査で、PSA値に異常が認められた場合は医師による直腸診やMRIなどの画像検査を行い、さらに前立腺の組織を採取する生検を実施して、がんの有無や進行度を判断します。

がん細胞が前立腺内にとどまっているなど早期の前立腺がんの場合、治療は複数の方法から選択できます。

このうち、手術療法は前立腺と精嚢を摘出して尿道と膀胱をつなぎ、根治を目指す治療法。従来型の開腹手術のほか、体内に挿入したカメラの映像を見ながら治療する腹腔鏡手術を受けることも可能です。ロボット支援下の腹腔鏡手術なら、より安全性の高い手術も望めます。尿漏れや勃起障がいなどの副作用を招じることもありますが、近年、その頻度は低下傾向です。

このほか、放射線による治療として外部から少しずつ放射線を投与する外部放射線治療と、前立腺組織内に密封小線源を永久に留置する組織内照射治療があり、外部放射線は7~8週間の通院治療に加え、近年はより短期間で行える方法も登場。組織内照射は2~3日の短期入院治療です。

一方、精巣摘出や注射により男性ホルモンを抑えて、がんの増殖・進行の抑制を狙う治療法がホルモン療法。不十分な場合は抗男性ホルモン剤を追加で内服します。進行したがんや高齢患者にも有効な方法として知られています。

なお、前立腺がんには症状のないまま経過して最終的に死亡の原因とならない「おとなしいがん」が存在することがわかっており、すぐに治療を始める必要がないと判断されたがんに対し、あえて治療を行わず、経過を観察する「監視療法」と呼ばれる治療法が採用されることもあります。

松下 幸生

監修/木村 高弘

東京慈恵会医科大学泌尿器科学講座教授。専門は泌尿器悪性腫瘍の治療、腹腔鏡手術、ロボット支援手術。

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